■「戦時想定せず」は矛盾

 外務省は「これらは平時を想定したもので、戦時には適用されない」と言うが、本当に戦時を想定しないなら、武器防護や運用の連携、共同演習などは不必要なはずだ。

 日米安全保障条約との相違は、自衛隊、豪州軍が相手国に常駐しない点だが、本来、同盟は相手国への駐留を前提とするものではない。日英同盟、日独伊三国同盟などのように対等な同盟では軍の駐留はなく、「駐兵権」は中国など半独立状態の国に強国が認めさせたものだった。今日でも米軍がほとんど駐留していない同盟国は多い。

「円滑化協定」が近く調印され、国会が承認すれば、豪州と日本は事実上の同盟国となる。だが、日本のメディアも野党も、不思議なほどにこの問題への関心が薄い。

 1960年に日米安全保障条約が改定された際には、日本では「安保改定反対闘争」が巻き起こった。

 51年に調印された旧安保条約は、米軍が日本国内の騒乱鎮圧にあたるなど、占領の継続に近く、しかも無期限だった。それを改定し、重要な装備の変更(核持ち込み)や、米軍が日本から行う作戦は事前協議の対象とし、10年後からは条約を終了できる、など、相当対等になる安保改定に対してすら反対が激しかった。今後、豪州と事実上の同盟関係に入ることに対しては利害得失の分析が重要ではあり、少なくとも無関心でいいはずがない。

■白豪主義が嫌中の背景

 オーストラリアは18年の輸出の34.2%が中国向け(主として鉄鉱石、石炭)で、香港を含むと37%余になり、長年中国と友好関係にあった。

 だが18年に首相となったモリソン氏はトランプ米大統領と親密で、19年9月に訪米した際には中国に対抗して米国と連携する姿勢を強調、中国との関係が悪化した。オーストラリア国民一般にも「嫌中」感情が広がり、政治家もそれに乗る傾向が強い様子だ。

 とはいえ、「嫌中」の背景は米国とはやや異なる。米国の場合、17年には対中貿易赤字が3700億ドル余り(約39兆円)に達しており、しかも近年中に中国のGDPが米国をしのぐ形勢であることが中国排除に向かう下地になっている。

 一方、オーストラリアは中国貿易で17年に275億米ドル(約2兆9千億円)の黒字を得ており、人口比率は白人が約80%、中国系は3%で、流入する移民は中東や南アジア出身が多い。本来なら嫌中の理由は薄いはずだが、国内で中国人の存在感が高まると反感が生じた。オーストラリアは73年まで「白豪主義」を続け、日本人など非白人の移住を制限していた。潜在する白人至上主義の感覚が時折、表面化するようだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号より抜粋

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