葉真中顕さん(撮影/加藤夏子)※インタビュー全文は公式note「朝日新聞出版さんぽ」でご覧いただけます https://note.com/asahi_books
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 ホラン千秋さんによる書評が産経新聞に掲載されるほか、週刊朝日、週刊現代、週刊新潮、週刊文春、AERAおよび共同通信でインタビュー記事が配信されるなど、各誌紙の紹介が相次ぐ葉真中顕さんの新刊『そして、海の泡になる』。発売前にプルーフ判を読んだ書店員さんからも「真摯な問いかけに溢れる力作」「現代社会の闇に触れつつも、ミステリーを楽しめるとても贅沢な内容で推さない理由が見つからない」「『真の幸福とは何か』を問いかける作品」と絶賛の声が寄せられていた。敗戦、バブル崩壊、コロナ禍の日本を描くことで、著者が問いかけようとしたこととは。「小説トリッパー2020年冬号」に掲載となった瀧井朝世さんによるロングインタビューの一部を抜粋して紹介する。

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■バブルの後遺症

――新作『そして、海の泡になる』は、バブル期に個人史上最高額の4300億円もの負債を抱えて自己破産し、さらに詐欺と殺人の容疑で逮捕された朝比奈ハルという女性の話です。といっても、本人は故人なので登場せず、アマチュアの物書きの“私”が、生前の彼女を知る人たちから証言を集めていくという構成です。それを通して、ハルの人生やバブルという時代が見えてくる。朝比奈ハルには実在のモデルがいるそうですね。

葉真中:尾上縫さんという女性です。参考文献に挙げているノンフィクション作家の井田真木子さんの『フォーカスな人たち』で描かれているのですが、バブル期にハルと同じ手法で資産を増やしていって、投資詐欺で逮捕された人物です。作中でうみうし様という神様のお告げに従って、ハルが投資をしていたと証言する人物が出てきますが、尾上さんもガマガエルを祀って占っていたらしいです。作中に登場するエピソードで、四大証券のトップ営業マンがハルにむらがっていたことや、彼女が年末にメガバンクに呼ばれてスピーチをしたというのは、尾上さんのエピソードを翻案したものです。ただ、尾上さんはハルのように殺人罪は犯してはいません。彼女については、井田さんの著書以外にも、バブルを象徴する人物として、いろいろな書籍で名前を見かけていて、かなり前から興味を持っていました。

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