「人新世(ひとしんせい)」という言葉が注目されている。地球が新たな時代に入ったことを意味するもので、環境危機と人類の文明をとらえ直すなかで広く議論が起きている。関連の著書もある気鋭のマルクス研究者、斎藤幸平・大阪市立大学大学院経済学研究科准教授は、新型コロナウイルスと「人新世」には深い関係があると分析している。その斎藤氏に、「人新世」について解説してもらった。
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「人新世」とは、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンが提唱した時代区分で、人類の経済活動が世界全体に広がり、その痕跡が地球上のいたるところまで及んだ年代という意味です。
地質学的にみて、現在の地球は約1万1700年続いた「完新世」の時代。それが新たな年代に突入したのではないかと議論されています。現在の経済活動、すなわち際限なく利潤を追求する資本主義が、それほど地球に大きな影響を与え、環境を破壊しているということです。
なかでも、「人新世」の時代で地球に大きな影響を与えているのが、人類が大気中に排出している二酸化炭素で、気候変動という人類の存亡にも関わる大きな問題を引き起こしています。
一方、2020年は、新型コロナウイルスが世界を襲いましたが、これも人新世と無縁ではありません。経済のために森林破壊を続け、人とウイルスの距離が近くなり、人やモノが移動することでパンデミック(世界的な大流行)が起きやすくなった。ただ新型コロナに関しては、ワクチンがパンデミックに終止符を打ち、私たちの生活は、まもなく以前の姿に戻れるのと期待されています。
けれども、私は、元の生活に戻ってはならないと考えています。気候変動の観点から考えると、大量生産・大量消費・大量廃棄で、二酸化炭素を排出し続ける資本主義への逆戻りは、人類滅亡への道でしかないからです。
すでに、世界の主要国は50年までに温室効果ガスの排出量をゼロにすると宣言し、日本政府もようやく同じ目標を掲げました。そうしないと、もはや人類文明が存続できないからです。けれども、気候変動の原因である資本主義そのものに挑まなければ、目標達成はできないでしょう。