棚田のような大きな岩風呂がある露天風呂「花」。トロッとしたお湯が肌を潤わせる(撮影/写真部・時津剛)
棚田のような大きな岩風呂がある露天風呂「花」。トロッとしたお湯が肌を潤わせる(撮影/写真部・時津剛)
本館2階の客室「日のおちぼ」の室内。部屋には、源泉かけ流しの半露天風呂もついている(撮影/写真部・時津剛)
本館2階の客室「日のおちぼ」の室内。部屋には、源泉かけ流しの半露天風呂もついている(撮影/写真部・時津剛)
現在の渡り廊下は改築されている。杉の香りがただよい、日差しが差し込む明るい廊下になった(撮影/写真部・時津剛)
現在の渡り廊下は改築されている。杉の香りがただよい、日差しが差し込む明るい廊下になった(撮影/写真部・時津剛)
宿の名物「おとぎ会席」。この日の物語は「鶴の恩返し」。ふぐの身が羽に見立てられている(3月は別メニュー)(撮影/写真部・時津剛)
宿の名物「おとぎ会席」。この日の物語は「鶴の恩返し」。ふぐの身が羽に見立てられている(3月は別メニュー)(撮影/写真部・時津剛)

 東北には名宿がたくさんあるが、地元女子アナのお気に入りはどこなのだろうか? 福島生まれで福島放送のアナウンサーとして活躍する、猪俣理恵さんは福島県須賀川市にある「おとぎの宿 米屋(よねや)」だという。

 米屋には本館と離れを結ぶ長い渡り廊下がある。この廊下が、「おとぎの宿」として生まれ変わる原点となった。

「リニューアルオープン前、渡り廊下は暗い、寒いとお客さまからたくさんのお叱りを受けていました。そんなとき、私は自分の子供たちにおとぎ話を聞かせることで、『大丈夫、まだがんばれる!』って自分を励ましていたんです」

 女将の有馬みゆきさんは当時をこう振り返る。全客室に設えられた天然温泉風呂と瀟洒なインテリア、棚田風の優雅な露天風呂、旬の素材を引き立たせる会席料理など、米屋の特長を挙げれば五指に余る。だが、米屋が単なる「高級旅館」と一線を画すのは、供される空間とサービスが、宿のコンセプトと高い次元で融合していることにある。

 たとえば、客室は「水のあくび」「土のおはなし」などテーマごとに全て違う意匠になっており、会席料理は一品ずつ「おとぎ話」のストーリーになぞらえ、素材や色彩が計算されている。かつては大人数の大宴会を低料金で“さばく”ような大衆旅館だったのを、冒頭のような経緯を経て「おとぎ話」をコンセプトに大転換したことが奏功したのだ。

 推薦者である猪俣アナウンサーはこう話す。「部屋に足を踏み入れた瞬間から、物語の世界に入り込んだようで、ずっと『非日常』が味わえます。椅子や調度品にも本当にこまやかなこだわりが感じられるお宿です」。

 須賀川に広がる「おとぎの世界」は、今日も大人たちを温かく迎えてくれる。

週刊朝日 2013年3月22日号