<心の綺麗な人が傍にいると 心地いいだろう? お母さんは頭が残念でね 良くなかった でも 美しかったし 歌は上手で>(18巻 第160話「重なる面影・蘇る記憶」)

 信者を食べている様子を琴葉に目撃された童磨は、琴葉にののししられても、すぐには殺そうとしていない。自分の行為の正当性をなんとか理解してもらおうとしている。童磨は、胡蝶しのぶの姉・カナエ、しのぶの弟子である栗花落カナヲ(つゆり・かなを)を称賛しているが、それでも簡単に殺害しようとしており、琴葉が特別な存在だったことがわかる。

 もうひとり、童磨が関心を示したのは、胡蝶しのぶである。他の女性については、残虐な方法をとっているが、しのぶだけは、その捕食シーンで、童磨が抱きしめ、自分の肉体に一体化させて吸収している。しのぶの死の直前には、「姉さんより才も無いのに」「全部全部 無駄だというのに やり抜く愚かさ」としのぶを言葉でも散々傷つける。自分に「地獄に堕ちろ」とまで言い放ったしのぶを吸収するのは、童磨の陵辱行為のようでもある。

 しかし、童磨の死後、童磨が地獄へいく直前に姿をあらわしたのは、しのぶだった。自分の手のひらに童磨の首を載せ、自分ひとりで成し遂げられなかったあだ討ちへの後悔、今後の願い、仲間への愛をしのぶは語る。この、しのぶの心の美しさに、童磨は初めての「恋」をする。今までに見せたことのない表情で、うっとりと恋を語るのだ。

<今はもう無い心臓が 脈打つような気さえする これが恋というやつかなぁ 可愛いね しのぶちゃん>(19巻 第163話「心あふれる」)

 とはいえ、そんな“改心”が受け入れられるわけもなく、しのぶに「とっとと くたばれ 糞野郎」と笑顔で返され、童磨の登場シーンは終わるのだった。この身勝手な恋心は、いわば「童心」のような、無邪気な心性を表していると捉えることもできる。

■童磨と、その魅惑的な「悪」 

 童磨が人を食う時にみせる「執着」と「欲求」には、性的な要素が含まれているように見える。「異性を食う」こともその要因のひとつであるが、吸血鬼が人間を襲う際にみせるような「性的陶酔」が、童磨の行為には見られる。これは、童磨の外見的魅力の描かれ方とも関連する。童磨は「虹色の瞳」、「白橡の頭髪」という、人とはちがう優れた容姿を持ち、新興宗教の教祖として熱狂されるほどに美しい。童磨の美しさ、人を魅了するたたずまいに心を許してしまった人間から、次々と食われてしまう。

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童磨が持つ「悪魔的」な魅力