デルゴシチニブ軟膏やバリシチニブが標的としているのはJAKという細胞内シグナルです。このJAKはアトピーの原因であるTh2サイトカインをほぼすべてブロックできます。Th2サイトカインはIL-4やIL-13だけでなく、IL-5やIL-31というサイトカインも含まれ、すべてがアトピーでは悪化の原因になります。そのため、幅広くアトピーの悪化因子を抑える効果が期待されます。

 デルゴシチニブ軟膏はすでに病院で使われており、1日2回、1回5グラムまで使用可能な塗り薬です。5グラムチューブで約700円ですので、3割負担の人で約210円の支払いになります。私が処方している実感としては、薬の強さはステロイドのストロングクラスくらい。プロトピック軟膏よりは少し弱い印象を受けます。ニキビなどの副作用はありますが内臓への副作用は報告されていません。こちらは16歳以上のアトピー患者さんが対象です。

 バリシチニブは飲み薬のJAK阻害剤です。すでに関節リウマチでは使用されている薬剤で、さまざまなデータをみるとデュピルマブと同程度の効果が期待できそうです。副作用として上気道感染などがあるとされており、安全面から生物学的製剤の扱いに慣れた皮膚科専門医に処方してもらうことが大事です。こちらは内服薬ですが値段は1錠4ミリグラムが5223円。3割の負担の人でも約1500円になります。この薬剤はデュピルマブ同様にこれまでの標準治療で十分な効果が得られなかったアトピー患者さんが対象となります。

 同じJAK阻害剤の内服薬として、ファイザー社が20年12月9日にアブロシチニブを日本で承認申請したと発表していますし、リンヴォック錠(ウパダシチニブ、アッヴィ)も20年10月にアトピー性皮膚炎を対象疾患に申請中です。このため21年には三つの経口JAK阻害剤がアトピー患者さんに使える予定です。

 Th2サイトカインの一つであるIL−13だけを抑える薬剤トラロキヌマブも今後登場予定です。IL-13はアトピー悪化のさまざまな局面で作用するサイトカインですが、注目すべきは皮膚の線維化に大きく関与している点です。皮膚炎の改善だけでなくゴワゴワした皮膚に治療効果を発揮する可能性があります。こちらは注射薬で使用可能となりますが、薬価などは未定です。

 またIL-31というサイトカインをブロックするネモリズマブも開発が進んでいます。IL-31はアトピーのかゆみに大きく影響していると言われているサイトカインです。実際にネモリズマブを用いた臨床試験では、アトピー患者さんのかゆみが優位に改善するデータとなっています。

 以上のように、経口JAK阻害剤3剤を含め多くの薬剤がアトピー患者さんに使用可能となります。それぞれの薬剤に特徴があるため、自分の症状にあった薬剤はどれか主治医と相談することが必要です。

 また、治験が進んでいる薬剤はほかにもあり、治療選択肢がぐっと広がります。使用にあたって悩むポイントとしては、効果は優れているけれども値段が高いという点でしょう。しかし、これに関しては高額療養費制度や会社の保険制度を活用して値段を抑えられる可能性があります。自己判断で新薬をあきらめる前に主治医に一度相談してみることをおすすめします。私たち皮膚科医にとってもアトピー患者さんにとってもコロナで大変な2020年でしたが、2021年は希望の年となることを願っています。

著者プロフィールを見る
大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

大塚篤司の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
「昭和レトロ」に続いて熱視線!「平成レトロ」ってなに?「昭和レトロ」との違いは?