M-1覇者のマヂカルラブリー(C)朝日新聞社
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 昨年末に放送された漫才日本一を決める『M-1グランプリ2020』は、コロナ禍の中でも例年に負けないほどの盛り上がりを見せていた。だが、大会終了後には、優勝したマヂカルラブリーの漫才について「あんなのは漫才じゃない」と主張する人が出てきて、空前の「漫才論争」が巻き起こった。

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 現時点では論争自体はすっかり下火になっているものの、長い『M-1』の歴史の中でも、優勝者の漫才についてそのような反発の声がこれだけ出てくるのは初めてのことだ。

 論争の是非については今さら問うまでもない。マヂカルラブリーは、プロのお笑い関係者が審査する予選を勝ち抜き、プロの超一流芸人が審査する決勝でチャンピオンに選ばれた。そんな彼らがやっていることが漫才ではないわけがないのは明らかだ。

 マヂカルラブリーの漫才を見て「漫才じゃない」と主張した人のほとんどは、自分の中に確固たる漫才観があるわけでもなく、「漫才とは何か」という問題について松本人志やオール巨人より深く考えた経験もないはずだ。

 恐らく彼らは、単にマヂカルラブリーの漫才を見て「笑えない」「何が面白いのかわからない」などと感じただけであり、その自分の感覚を表現するために「これは漫才ではない」と言いたくなっただけではないだろうか。

 本稿では、そんな不毛な漫才論争にこれ以上何か物申したいわけではない。そもそもこの論争が生まれた背景について考えたいのだ。

 漫才論争が起こったのは、マヂカルラブリーの漫才が一部の人にとっては型破りなものに見えたからだ。彼らがそのような芸風に行き着いた理由の1つは、ボケ担当の野田クリスタルがインディーズお笑い界出身の芸人だからだ。

「インディーズお笑い界(地下芸人界)」という言葉に明確な定義はないが、小さいライブハウスで少人数の観客を相手にとがったネタを演じる芸人たちの集まりを指している。

 野田は高校生の頃に友人とコンビを組んで当時の人気番組『学校へ行こう!』(TBS系)に出演したことをきっかけに、芸人を志すようになった。その後、地下芸人界に入り浸り、マニアックな笑いを追求してきた。

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地下芸人時代の野田の代表作は「ガムテープ男の物語」