俳優としてのキャリアは20年を超える。これが長編2作目となるグレゴリー・マーニュ監督は、ドゥヴォスが聴覚障害を持つ女性を演じたジャック・オディアール監督作「リード・マイ・リップス」(2001年)を観て以来、その存在を強く意識するようになったという。

 ドゥヴォスに作品選びについて聞くと、「一度演じた役と似たような役を選ばないようにしている。脳と心が感じたままに決めている」。

 ベテラン監督よりも、映画の世界に飛び込んだばかりの若い監督たちの作品に多く出演しているように見える。

「確かにアルノー・デプレシャンやオディアールの作品に初めて出演したとき、彼らはまだデビューして間もない監督だった。若い監督と仕事をしたいと思うことは、いまも私にとっては自然なことなの」

◎「パリの調香師 しあわせの香りを探して」
偶然出会った天才調香師と専属運転手は、次第にお互いを補い合う存在となる。1月15日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」

「パリの調香師 しあわせの香りを探して」でエマニュエル・ドゥヴォス演じるアンヌは、周囲がどう思おうが、その場の空気はお構いなしに、思ったことを口にする。それでいて、引っ込み思案なところもあり本心は誰にも見せない。ドゥヴォスは、その姿は「どこか喜劇的でもある」と表現していた。

 人生の悲哀を喜劇的かつ魅力的に演じる俳優として思い出したのが、フランスのヴァンサン・マケーニュだ。なかでも、「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」(2013年)にはマケーニュの魅力が詰まっている。

 マケーニュが演じるアルマンは定職なし、恋人なしの元美大生。自分の人生にサプライズが訪れることはもうないのだろうか、と悶々とする日々を送る。ある日、公園で出会った女性に恋心を抱くが、願いがかなったらかなったで、また新たな不安が押し寄せる。情けなさを自認しながら毎日を送るアルマンの心の機微が丁寧に描かれている。

 理想とする生き方ではなくとも、人と出会うことで人生は少しだけ動きだす。どちらも、器用に生きることができない主人公たちを優しいまなざしで見つめた作品だ。

◎「メニルモンタン 2つの秋と3つの冬」
発売元:東風+gnome
販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2021年1月11日号

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