
「オンライン診療はもともと医療現場に必要なもの。本質的な価値は、新型コロナウイルスの感染が広がる前と後とで変わりません」
オンライン診療の先駆け的存在と言える医療ベンチャー・メドレーの豊田剛一郎代表取締役医師(36)はそう話す。脳神経外科医から米大手コンサルティング会社を経て、2015年にメドレーへ。小学生時代からの知人で同社創業社長の瀧口浩平氏とともに、共同代表としてかじ取り役を担う。
オンライン診療は、患者が医師と対面せずにスマホやパソコンなどの画面を通じて自宅などで診察や薬の処方が受けられる仕組みだ。18年度に生活習慣病などの再診に限って保険適用に。20年4月に新型コロナの感染が収束するまでの臨時的措置として初診でも認められ、同10月には菅義偉首相が「恒久化の推進」を指示した。
一方、医療界には慎重論も根強い。
「対面診療が必要ないとは思っていません。ただし、従来の規制は、実際に現場で利用している医師たちからすると、理不尽に厳しいものでした」
メドレーは09年に設立。予約から問診、診察、会計までオンライン上で完結するアプリ「クリニクス」は2千以上の医療機関が導入し、国内トップのシェアだ。20年9月からは服薬指導などをオンライン上で行う薬局向けのシステムも開始した。医療現場のデジタル化の土台を支える。
豊田さんは東京大学医学部出身で、父が元衆院議員の潤多郎氏、妻がキャスターの小川彩佳氏でも知られる。華やかな人生にも見えるが、今の成功を支える原点は研修医時代。医師が働きづめで疲弊し、診療時間も十分に取れないような現場を目にしたことだ。
「医師や患者の負担を減らしたい。医療現場はアナログすぎる。まだやるべきことは多い。農業で言えば、ようやく畑ができた段階。これから変革のタネをまいていきたい」
(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2021年1月15日号