平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
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昨年12月の日本選手権男子200メートル個人メドレーを制した萩野公介(右) (c)朝日新聞社
昨年12月の日本選手権男子200メートル個人メドレーを制した萩野公介(右) (c)朝日新聞社

 指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第51回は、エース萩野公介について。

【写真】昨年12月の日本選手権男子200メートル個人メドレーを制した萩野公介

 読者の方へのプレゼントの年賀状に「今年こそはオリンピック」と書きました。新型コロナウイルスの感染拡大で困難な状況が続いていますが、競泳日本代表チームが東京五輪でいい結果を出せるように、しっかり準備をしたいと思います。

 標高1750メートルの準高地にあるGMOアスリーツパーク湯の丸(長野県東御市)で行った昨年12月の合宿では、3大会連続の五輪を目指す萩野公介の充実ぶりが目を引きました。これだけいいトレーニングができた合宿は本当に久しぶりです。男子400メートル個人メドレーで金メダルを取ったリオ五輪に向けて力を伸ばしていた時期以来、4、5年ぶりでしょうか。

 国際リーグ(ISL)から日本選手権とレースが続いて練習量が十分ではなかったので、まずはいいフォームで泳ぐことを重視して、陸上トレーニングも水中動作との関連性を意識しながら進めました。萩野は集中できていることはもちろん、「スクワットではなくて、違う種目に変更してみたい」などと積極的な提案も出ていました。

 幼いころから水泳の才能に恵まれていた萩野は高校3年のロンドン五輪男子400メートル個人メドレーで銅メダルを取り、東洋大学に進学してから私が指導してきました。大学4年のリオ五輪で金メダルを取って次のステージに進むとき、社会人としてこれまでとは違ったアプローチで競泳に取り組んでほしい、と思っていました。もっともっと萩野自身が主体となって競泳に取り組むこと、それで五輪連続金メダルが取れればこんなにいいことはない、と考えていました。

 しかし、2008年北京五輪で2大会連続2冠を果たした北島康介を指導した経験から、それが簡単ではないことはわかっていました。萩野もこの4年の間に一時期競泳から離れて少し回り道をしましたが、競技力もマイナスからゼロに戻ってプラスに転じる軌道に乗ってきたと思います。

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