「夫の実家は家業を営んでおり、後継ぎがほしかったのだと思います。長男に、実家に引っ越してこないかと打診したが断られたため、まだ幼くて言いなりになる次男を連れ去ることにしたのでしょう」
連れ去り後すぐ、理津子さんは子の引き渡しと監護者指定審判を申し立てた。しかし、「監護の継続性」で夫が監護者に指定され、次男を取り返すことはできなかった。
以来、夫は次男を理津子さんに会わせようとしない。ようやく面会できたのが、連れ去られてから半年後。父親や祖父母の影響か、次男は、母親を拒否するようになっていた。いわゆる「片親疎外」だ。
「連れ去られるまでは毎日、ママ大好きと言っていた次男が『ママ怖い』と言うようになりました。本心だとは思えません。しかも、『ママがぼくを取り返したいのは養育費が欲しいからだ』だなんて、小学生がそんなことを思いつくでしょうか。夫や祖父母が自分たちのところに引き留めておくために、悪口を吹き込んでいるに違いありません」
連れ去られてから2年間に3回、第三者機関の立ち会いの元で次男と面会したが、次男の表情は暗く硬い。
「そばに他人がいるので、自分の気持ちを出せないのだと思います」
そして、夫は離婚調停を申し立ててきた。このまま離婚に応じると、「監護の継続性」から、次男の親権は夫に取られてしまう可能性が高い。理津子さんは、離婚を拒否。調停は不成立に終わった。
こうなった今、理津子さんが望みをかけているのは、離婚後の共同親権の法制化だ。推測するに、夫が次男を無理やり連れ去ったのも、離婚によって親権を失いたくなかったからだ。
民法で離婚後の単独親権が定められている現状では、一方的に出て行った夫が子どもの親権を得ることはむずかしい。夫は家業のために、どうしても後継が欲しかった。それで、このような強硬手段に出たのだと理津子さんは考えている。離婚後の共同親権が法制化されたら、次男を囲い込もうとする夫の考えも変わるかもしれない。