東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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※写真はイメージです(gettyimages)
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 新年とともにコラム執筆が100回目を迎えた。4年近く続けてきたことになる。

 この4年は国内外で政治の混迷が深まる一方だった。コラム初回は2017年1月でトランプ大統領就任前夜。分断の時代が始まり、パリ協定やWHOからの脱退など、世界はトランプに振り回され続けた。経済格差は拡大し、剥き出しのヘイトも広がった。

 国内もガタガタだった。同年秋の衆院選ではポピュリズム新党の戦略に振り回されて民進党が実質的に解体し、いまに至る与党支配が固まった。野党の弱体化は腐敗を生み、モリカケ桜と次々スキャンダルが噴出したが、政権基盤は結局びくともしなかった。米国では大統領が代わるが、日本で政権交代が起こる兆しはまったくない。

 それはSNSへの期待が潰(つい)えた4年でもあった。SNSが誕生したのはゼロ年代半ば。SNSで民主主義が変わるという議論が盛んに行われた。けれど10年代には早くも弱点が明らかになった。SNSのやりとりは即時的で感情的で、政治に向かない。広告による誘導や権力の嘘にも弱い。SNSと民主主義の結合はむしろ社会を不安定にするのだ。

 おそらく2020年を含む10年代の後半は、ポピュリズムとフェイクニュースにのみ込まれ、民主主義が機能不全に陥った時代として記憶されることだろう。コロナ禍はその最後の一撃となった。感染症対策は多くの国で失敗した。未曾有の事象なのでやむなしだが、恐怖に駆られて統制を望む声が世界的に増えたのは問題だ。流行収束後、民主主義はその声とも闘わなくてはならない。

 4年のあいだには希望もあった。気候変動、#MeToo、BLMといった運動が、若い世代を中心に次々と世界的なうねりを作り出していったのは驚きだった。そこには新しい民主主義の息吹がある。SNSの弱点を乗り越え、持続的な運動として定着するかどうかが鍵になる。

 100回を振り返ると、希望よりも批判や諦めを記した原稿が目につく。憂鬱な緊急事態宣言再発令から始まった新年だが、今後は明るい話題を追いかけたい。転機の年になればよいと願っている。

◯東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2021年1月18日号