もう一つのポイントは「教員の腹落ち」だ。大多数の教員は、ICTがなくてもこれまで十分授業はできていた。しかし、目の前の子どもはAIの台頭など大人が経験したことのない世界を生きていく。未来を生きる子どもの目線に立ち、ICTが必須のツールであることを真に理解していなければ、日常的に使おうという発想にならない。「必要性が腹落ちしないまま、ノルマを課したり事例集を作ったりしても、先生たちの負担感が増えるだけ。でも、先生たちは教育のプロですから、一旦心に火がつけば突き進みます」
現場では「ICTは若い先生に任せればいい」との声もある。だが戸ヶ崎教育長は「授業の組み立てに長けたベテランが取り組むからこそ効果が大きく、周囲への刺激になる」と話す。
■優れた授業を可視化
戸田市の教育改革のエンジンとなっているのは、産官学民の連携だ。市内の小中学校はさまざまな実証研究の場となっており、機材やソフトウェア、教材を供給する企業や、大学の関係者らが頻繁に出入りする。学校と企業などの連携は「教員の意識を大きく変えた」と戸田東小の小高校長は言い、こう続ける。
「教員は井の中の蛙になりがち。でも外部の人と接し、社会の変化をリアルタイムで知ることで、これからの子どもたちに必要な教育とは何かを問い直せる」
いま、同市が力を入れるのは、エビデンスに基づいて教室を科学するプロジェクトだ。ICT活用で得られる一人ひとりの学習データを教育経済学や教育工学の専門家らと分析。優れた授業とは何かを言語化、可視化、定量化する試みだ。
「経験と勘と気合という『3K』に頼るやり方は、もう通用しません」(戸ヶ崎教育長)
GIGAスクール元年。こうした取り組みがあちこちで芽吹いていけば日本の教育も変わるはずだ。(編集部・石臥薫子)
※AERA 2021年1月18日号