デスマッチファイターとしてトップにいる自負はある。周囲も異論はなく、ファンからの絶対的支持が証明している。しかし近年はケガなどもあり、自身のプロデュース興行でメインを譲る姿も見かけるようになった。

「悔しいも何も、プロデューサーとして試合順を決めるのが仕事。客観的に考えて妥当な試合順。誰もが期待して、足を運ぶ興行にしたい。団体の最高峰のタイトルマッチをメインに持って来ないと、自分のエゴになってしまう。もちろん1人のレスラーとしては悔しいし、ムカつきますけどね」

 身体を傷つけ、文字通り命懸けで戦う。肉体、精神とも擦り減らし続けており、先が長くないことは本人が1番理解している。好きでやっているデスマッチだが、1人でも多くに見てもらいたい気持ちは強い。

「好きでやっているとはいえ、これだけ死を意識しながら身体を酷使している。大ケガもする。少しは報われたいというのはある。人間だからそう考えてしまう。同じく好きなことをやっている野球、サッカー、ゴルフといった他競技の選手は、社会的地位もある。正直、多額のお金をもらっている。デスマッチファイターもそうなれればと思う。同じ。でも反面、世間はコンプライアンスなどにデリケートになっているので、無理かなという諦めもある」

 世の中には娯楽が溢れている。ネット全盛時代はヴァーチャルでも好きなことができる。敢えてリアルな場所で、身体を痛めて血を流す必要はないのかもしれない。しかしそれを敢えて『好き』でやっている奴らがいる。

「思い返してみれば、客を引かせる、相手をぶっ潰してやる、と言っていた自分は幼かった」

 リング内外で多くの経験を積み重ねたことで生まれた感覚。それこそが葛西のデスマッチを際立たせ、見るものに何かを訴えかけて来る。

 確かに、デスマッチを知らずにいるのはもったいない。

(*)葛西純 自伝『CRAZY MONKEY 』(blueprint)より

(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。