林:素晴らしいです。日本のエンタメ業界を変えた有名な話として、劇団四季が「キャッツ」を日本で初めて上演したとき、「ぴあ」がオンラインでチケットを買えるようにしたという逸話がありますね。
矢内:「チケットぴあ」のスタートのときですね。あれは浅利(慶太)さんの慧眼だったと思いますね。「チケットぴあ」の開発は、外に情報が漏れないように秘密裏にやってきたつもりなんだけど、浅利さんはどこからかその情報を得て、ある日突然、僕を訪ねてきて、「コンピューターでチケットを売る仕組みを『ぴあ』が開発してるそうですね」と言われてびっくりしたんです。「今、ブロードウェーで大ヒットしている『キャッツ』という作品を手に入れた。日本でも絶対ヒットする。ただ、ブロードウェーでもロンドンのウェストエンドでも、2年3年のロングランをやっているのに、日本の劇場は長くて1カ月しか貸してもらえない。だから劇場をつくるしかない」と言うんです。それで「キャッツ」専用の「キャッツ・シアター」をつくったんですね。
林:西新宿ですよね。
矢内:さらに浅利さんは「もう一つ必要なのは、コンピューターでチケットを売る仕組みだ」と言うんです。「そうすれば短時間に大量に販売できる。ロングラン公演のためにはそういう仕組みが必要なんだ。『ぴあ』が開発している仕組みに『キャッツ』を乗せてほしい」と言うわけです。
林:ええ。
矢内:「いつ初日ですか?」と聞いたら、うちがシステムをスタートさせようとしているタイミングより半年も早いんですよ。「それは無理です」と言ったら、そのときはそのまま帰られました。そしたらまたやってきて、熱っぽく語るんです。そのあともまた来られるんで、だんだん情熱にほだされて、システムを開発している現場の努力で、フル装備は無理だけど、「キャッツ」のチケットだけ売れる仕組みをつくったんですね。
林:あれは結局、何枚売ったんですか。
矢内:3日半で10万枚売り切ったんです。今なら10万枚なんて何分かで売っちゃいますけど、1983年だから、今から38年前でしょう。歌舞伎座でもどこでも目の前にお客さんを並ばせて売ってたんですから、日本の興行界にとってはとんでもない大事件だったんです。