2020年下半期(第164回)の芥川賞は、宇佐見りんの『推し、燃ゆ』、直木賞は西條奈加の『心淋し川』に決まった。
宇佐見りんは1999年生まれ。現在は大学2年生である。大学名は公表していない。受賞後の会見で専攻、卒論についてこう触れている。
「国文学専攻なのですが、いろいろなことに興味があります。宗教学、日本の古典、語りについてなど、調べたいことがある。すごく好きな作家が中上健次。一番尊敬していて、卒論はまだ決まっていませんが、彼について調べて書いていきたいと思います」(朝日新聞デジタル 2021年1月20日)
大学生が在学中に芥川賞を受賞したのは、一橋大法学部の石原慎太郎(1955年下半期)、早稲田大教育学部の綿矢りさ(2003年下半期)らがいる。なお、綿矢はいまでも芥川賞の最年少受賞者であり、宇佐見りんは史上3番目の若さとなる。
芥川賞作家の学生生活はどのようなものだろうか。綿矢は次のように話す。
「在学中に芥川賞を受賞したので、『大学でよく声を掛けられたでしょう?』と聞かれるんですけど、全然そんなことありませんでした。むしろ学生さんたちは冷静で、特にいつもと変わらないような感じですかね。昼は授業を受けて、帰宅して夜になると小説を書くという毎日。生活のリズムを崩してつらい日々だったけど、早稲田はちょっと陰のある学生でも受け入れるような雰囲気があったので、自分が浮くような感覚はありませんでした」(毎日新聞 2019年9月18日)
宇佐見と同じ大学に通う学生は、芥川賞作家は同級生ということを当然、知ることになる。在籍校を公表していない以上、まわりはあたたかく見守ってほしいものである。
『大学ランキング』(朝日新聞出版)では、歴代の芥川賞、直木賞の受賞作家の出身大学ランキングを調査している(表参照 2019年下半期までを集計)。
芥川賞は早稲田大がトップで、東京大と競り合っている。東京大出身には小島信夫、森敦、吉行淳之介、丸谷才一、大江健三郞、古井由吉、柴田翔、庄司薫、清岡卓行、松浦寿輝などがいる。その時代ごとに、人間の生きざまについて純文学のなかで解きほぐしてくれた。
直木賞は早稲田大が2位以下を大きく引き離す。五木寛之、野坂昭如、生島治郎、青島幸男、深田祐介、連城三紀彦、高橋克彦、乃南アサ、重松清、角田光代、三浦しをん、朝井リョウなど。その時代の新しい文化の担い手となる役割を果たしたと言えるだろう。