帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
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加島祥造さん (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「病気のなかでの健康」。

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【in】ポイント
(1)「病気でないことが健康だ」とは言えない
(2)[from]ではなく[in]という教えはとても重要
(3)病のなかにあろうと患者さんの健康は守れる

 年をとっても健康でありたいとみんなが思います。ナイス・エイジングにとって、健康であることは重要です。しかし、その健康とは何なのかと問われると、その答えは簡単ではありません。「病気でないことが健康だ」という方がいらっしゃるかもしれませんが、私はそうは思いません。

『南山堂医学大辞典』には、健康の概念として最も有名なのは世界保健機関(WHO)の憲章の前文にあるものだと書かれています。この健康の定義については以前にも述べましたが「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会訳)だというのです。この辞典ではほかに、「遺伝的に受け継いだ潜在力を、可能なかぎり発揮できること」(R.Dubos)という健康の概念も紹介しています。

 だいぶ昔になりますが、「ホメオパシー」の第一人者として欧米で名高いジョージ・ヴィソルカス教授をギリシャまで訪ねていったことがあります。

 教授は私の顔を見つめて「ドクター・オビツは大学で『健康とは何か』ということを学びましたか」と聞くのです。日本の医学教育では、そういうことにあまり触れません。そこで「いやあ、学んだかどうか、記憶にありません」と答えをにごしていると、教授は毅然(きぜん)としてこう語りました。

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