6年前、高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致に動いた鹿児島県の小さな町がいま、大きく揺れている。町に誘致を仕掛けた「謎のフィクサー」X氏の存在が明らかになり、町長との癒着など数々の疑惑が囁かれているのだ。

 鹿児島県・南大隅町。目立った地場産業もなく過疎化の進むこの町では、2007年に、使用済み核燃科の再処理で出る「高レベル放射性廃棄物」の最終処分場の誘致話が持ち上がったことがある。そのとき、町に誘致話を持ちかけ、積極的に動いたのが、A商事(本社・東京都千代田区)のX社長だった。

 最終処分場をめぐっては、02年、原子力発電環境整備機構(NUMO:ニューモ)が、全国の市町村に候補地の公募を開始。対象自治体には、処分場用地としての適合性の文献調査の段階から、年10億円の交付金が出ることになっている。当時の南大隅町の高齢化率は県内一で、町の借金は120億円に膨らんでいた。

 X氏は、このNUMO職員や、すでに核関連施設を誘致していた青森県六ケ所村の土田浩・元村長(故人)らを引き連れて、町議会で熱心に説明した。

 しかし、その後、鹿児島県の伊藤祐一郎知事が猛反好。さらには東日本大震災後の12年12月に、町議会で「核施設拒否条例」が可決され、誘致話は立ち消えになったかに見えた。

 ところが、最近になって再び、このX氏の“疑惑”が町議会で大きく取りざたされているのだ。実は、現在の町長である森田俊彦氏に、X氏が自分のボートを譲渡していたことが明らかになり、いまも誘致話が水面下で続いているのではないか――との臆測が飛び交っているのである。

 3月19日の町議会では、森田町長に対し、町議から激しい質問が飛んだ。「Xさんが町長に何かをするのは、目的がないとやらない。本当にXさんからボートを買ったのなら、その領収書を見せてほしい」。

 森田町長はボート譲渡について、X氏から15万円で買ったことを認めて謝罪。誘致話はないとしたが、追及は続いた。「町長に不信を持っている人がいっぱいいる。Xさんとの関係をはっきりと教えてくださいよ!」

 それだけではない。ある地元住民は、週刊朝日の取材にこう話すのだ。「以前、X社長の招待で、六ケ所村と福島第一原発の見学ツアーに行きました。見学後、東京でX社長から高級ホテルの中華料理をごちそうになり、六本木のクラブに行った。すべてX社長の支払いです。森田町長も同席した」。

 つまり、“接待疑惑”である。森田町長は、取材にこう答えた。「あくまで、私が(町長になる前の)商工会長時代の話です。何かの折に上京した際、税所(さいしょ・篤朗)町長(当時)に連れられて初めてXさんと会った。処分場の関係に詳しい人だとは認識していましたが、どういう立場の方かは知りませんでした」。

週刊朝日 2013年4月12日号