AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
鈴木保奈美さんによる初のエッセー集『獅子座、A型、丙午。』で描かれているのは、日常のちょっとした疑問と、驚き、怒り、負けじ魂。たっぷりのユーモアに、毒も少々盛り込んだ初エッセー集だ。著者の鈴木さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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リズミカルな文章を前に、心のなかで激しく相槌(あいづち)を打つ。映像作品を観ているだけではわからなかった。鈴木保奈美さん(54)がこんなにも軽やかで飾らない人だったとは。
『獅子座、A型、丙午。』は、鈴木さんの初のエッセー集。「ちょっと面白い話があったから聞いて」と、友人に話しかけるような感覚を大切に書き連ねた作品だ。
実は子役と接するのが苦手だったこと、娘の貯金を預けようと銀行に行くも硬貨を勢いよく投入し、ATMを壊してしまった日のこと……。流れていってしまいそうな日常に目を向け、自らをさらけ出す。その姿が清々しい。
「いまの時代、積極的に自分を出そうとしなくても、さまざまな形で覗かれてしまう。誤解されるくらいなら『自分公認の自分』を出していったほうが納得できる。そんな気持ちもあったのかな」
エピソードは、一つあたり1300字ほど。頭のなかにためていたフレーズを組み合わせ、2時間ほどで書き上げる。自身、書店で本を選ぶ際は1ページ目の1行目を読んで購入するかどうかを決める。だからこそ、書き出しにはこだわった。
「奇をてらい過ぎて『あ、狙いにいっているな』と自分で思うときもありますけれど(笑)。書き出すといろいろと尾ひれをつけたくなって、そこから広がっていく」
小学校の頃から文章を書くことが好きで、学級新聞も進んで取り組んでいた。出来事を自分なりの言葉で表現し、分析していくのが好きだったのではないか、といまは思う。思考を縦横無尽に広げていく様子は本書のなかでも描かれている。たとえば友人の息子の恋人がきちんとお皿を洗う子だった、という会話からは「前時代的な話をしていたのでは?」と自らに問いかけ、考えを巡らせる。