しかし、禰豆子より下の兄弟はすべて殺害され、結果的に禰豆子は、「長女」という立場から、「末っ子」になった。鬼化によって禰豆子は「赤ちゃんのように無垢な性格」になったこともあり、幼い女の子のように、炭治郎に甘えるようになった。

 以前は、家族のために尽くしてばかりの、我慢強い禰豆子を見て、炭治郎はいつも禰豆子に謝っていた。禰豆子は炭治郎に「謝ったりしないで お兄ちゃんならわかってよ 私の気持ちをわかってよ」と怒っていたが、それでもやはり炭治郎は禰豆子を「妹らしく」甘やかしてやりたかった。皮肉なことに、鬼化によって禰豆子が幼くなってはじめて、兄は、この年齢の近いしっかり者の妹を「甘やかし、守れる」ようになったのだった。

鬼滅の刃』において、鬼舞辻による竈門家の襲撃は、「長男・長女」という炭治郎と禰豆子の関係性を、「長子と末っ子」というかたちに変えた。

■眠りつづけた「妹」の「目覚め」

 本来は「人喰い」によって補給しないといけない「鬼化」のパワーを、禰豆子は「長い眠り」で回復させようとする。そして、兄たち鬼殺隊と、鬼舞辻無惨との最終決戦がはじまるころ、禰豆子は人間に戻るための「肉体的試練」を受けることになる。竈門兄妹を保護してくれた、鱗滝左近次の看病のもと、苦しみながら鬼としての最後の眠りにつく禰豆子。しかし、兄の最大の危機に際して、禰豆子はその寝床を飛び出すのだった。

 亡き父の導きで、兄のもとに駆けつけようとする禰豆子。しかし、起き上がったばかりの禰豆子は、まだ鬼のままだ。その後、禰豆子には、人間の時の記憶を取り戻す、「目覚め」がおとずれる。鬼となって眠り続けていた禰豆子を、「真に目覚めさせた」ものはなんだったのか? 

 禰豆子は人間の時の記憶をひとつひとつ取り戻していく中、鬼舞辻との遭遇時を思い出し、怒りで我を忘れかける。しかし、自分を思う兄の涙によって、記憶の封印がひも解かれ、鬼殺隊とそれに関わるたくさんの人々との優しい思い出が、禰豆子の中で、走馬灯のように広がった。

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禰豆子を「長い眠り」から目覚めさせたもの