■濃いめが効くとの報告
塩分濃度は1.5~3.0%の「濃いめ」が効果的との指摘もある。生理食塩水の3倍までの濃さの「高張食塩水」を使った鼻うがいの有効性が、2019年にイギリスで行われた研究で報告されている。この研究は「のど風邪」や「鼻風邪」にかかった人を対象に発症後48時間以内に鼻うがいを開始。最初の2日間は1日6回行い、その後も回数を減らしながら鼻うがいを続けた。その結果、鼻うがいをした人は、しなかった人よりも体内からウイルスがいなくなる時期が早まり、風邪の期間は22%短縮され、薬の使用は36%減少し、家族への感染も35%減少した。
「この結果を踏まえると、新型コロナウイルスの感染抑制にも鼻うがいが役立つ可能性があると考えられます。花粉症による粘膜の炎症を抑えるのにも高張食塩水を使ったほうがいいでしょう」(堀田さん)
体内にウイルスが入ってから発症まで4~5日といわれている新型コロナの潜伏期間も、鼻うがいの有効性を期待できる要因につながるという。
「例えばインフルエンザだと、感染から数時間後に増殖が始まりますが、新型コロナの場合、増殖までの時間が長い。ウイルスが体内に入ったとしてもその日のうちに鼻うがいで洗い流し、増殖を抑えることができれば、ウイルスが鼻咽腔粘膜の細胞に取り込まれて感染したり、発症したりするのを防ぐ可能性があります」(同)
ただ、世界保健機関(WHO)は昨年2月、生理食塩水による鼻うがいの感染予防効果は確認されていない、との見解を発表している。
堀田さんも、鼻うがいが新型コロナの感染予防に有効というエビデンスは不十分との認識だ。そこで昨年5月、JFIRで「みんなで鼻うがいプロジェクト」を立ち上げた。鼻うがいを全国に普及させ、新型コロナの感染予防効果を科学的に立証するのが目的だ。新型コロナ感染者における鼻うがい実施者の割合が、全人口における鼻うがい実施者の割合と統計学的に比較して極端に少ないことを証明する必要がある、と堀田さんは考えている。
「ワクチン接種効果の期待はもちろんありますが、安価な鼻うがいの効果も科学的根拠を示すことができれば、WHOも別の見解を出すはずです」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年2月15日号より抜粋