入居者の減薬をすすめる高齢者施設が出始めている。一般に施設の減薬は多くの障壁があり難しいとされるが、認知症の改善や介護職員の負担軽減にもつながったという例も報告されている。
アルツハイマー病を患うサヨ子さんが、東京都大田区にある24時間介護付き有料老人ホームらいふ(本社・品川区)に入居したのは、今から1年ほど前のことだ。同施設の施設長の森中務さんが当時を振り返る。
「今の様子からは想像できないと思いますが、当初は車いすで暴走したり、杖を振り回したりするほど、落ち着きがありませんでした」
サヨ子さんのこうした症状は当初、認知症に見られる行動・心理症状(BPSD)によるものだと思われていたが、それだけではなかった。
らいふでは、家族の同意を得た入居者について、以前から減薬に取り組んでいる。サヨ子さんも服用していた薬を見直したことで、徐々に症状が落ち着いてきたのだ。
入居時に処方されていたのは、抗不安薬や抗精神病薬、降圧薬、便秘薬など13錠と半錠、粉薬が2包だった。それを主治医と施設看護師、薬剤師らが見直し、薬の種類と量を調整していった。現在は、抗不安薬を1錠だけ服用する。
「薬を減らしてからは会話はもちろん、食事も一人でできるようになりました。このまましばらく様子を見る予定です」
と、施設看護師の三津間基弘さんは言う。
内閣府の高齢社会白書によると、2019年10月1日時点の65歳以上の高齢者人口は3589万人。17年度末の要介護(要支援)認定者の数は628万人で、9年前より180万人弱も増えている。
そんななか、高齢者の医療や介護で問題になっていることの一つが、多剤服用によって害を及ぼす「ポリファーマシー」だ。高齢者は複数の病気があることが多いため、薬の種類も数も増え、副作用などさまざまな問題が起こりやすくなるというのだ。
厚生労働省によると、75歳以上の約4分の1が7種類以上、4割が5種類以上の薬を処方されていて、日本老年医学会は、6種類以上を服用すると、害を及ぼす頻度が増えてくると指摘している。