タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】森氏の女性蔑視発言に対し、在京のEU代表部やドイツやフィンランドなど加盟国大使館が、ツイッターで男女平等を訴えた
* * *
女性差別発言で、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長を辞任すると表明した森喜朗氏。「もういつまでもグダグダ言っていないで次に行こう」と空気を一新しようとする動きもありそうです。でも森氏一人が辞めても、議論を封じる組織や習慣化した女性差別が日本からなくなるわけではないですよね。形だけトップをすげ替えて、問題の本質は議論せず水に流すことを繰り返してきたから、森氏は現役であり続けたわけですから。ここはみんなで身の程をわきまえずに「男尊女卑をやめろ」「個人を抑圧するな」と言い続けなくてはならないなと思います。
世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ指数ランキングで日本は121位、先進国で連続最下位です。下位の国が状況を改善して年々順位を上げていく中、日本は鉛の重りが入っているかのようにむしろ順位を下げています。意思決定層が「森さん」的であり続ける限り、日本は先進国最下位であり続けるでしょう。
日本の政治・経済分野での男女格差が大きいのは、まさに森氏にとって居心地のいい、男性中心の権威主義的な組織が女性の参加を阻んできたから。聞き分けの良い「わきまえた女性」しか仲間に入れないぞと脅し、口を塞(ふさ)ぐやり方が続いてきたから。医大入試の点数操作も然り。非人間的な激務に耐える男性医師の世界に、子供を産む女性医師は要らないという発想です。日本の組織の意思決定層が「文句を言わずに働く兵隊しか要らない」という本音を改めない限り、「男は兵隊、女は子守か男のお守り」という性別役割分業は変わりません。賃金労働も無償のケア労働も、働く人の幸せではなく組織の利益のため。そんな個人が軽視される構造がハラスメントや女性差別の温床になっています。遍在する「森さん」に引導を渡すのはこれからです。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年2月22日号