「患者さんにとっては、傷が小さいことが第一になりがちですが、がんを取りきれるかどうかを第一に考え、そのうえで低侵襲ならなおよい、といったスタンスが大切です」
大腸がんの手術の多くは腹腔鏡手術となっているのが現状である。腹腔鏡手術の一つであるロボット手術との使い分けを関西労災病院の村田幸平医師が説明する。
「ロボットでは狭い骨盤の奥までよく見ることができ、繊細な操作が可能です。肛門に近い直腸がんの手術にはロボットが適しているといえます。ただし、通常の腹腔鏡に比べると触覚がほとんど伝わらないため、病変部の硬さを感じることが難しく、注意が必要です」
■肛門を残せたとしても排便機能は低下することも
下部直腸にできたがんの場合、がんを取りきるために肛門も含めて切除して永久人工肛門を造設するか、最低限の肛門を残したうえでがんを最大限切除するかを選択することになるケースがある。塩澤医師が言う。
「肛門温存術を選んだ場合、肛門は残せても、手術で直腸を切除することで排便機能は低下します。便をためられずに1日4~5回もトイレに通ったり、漏れたりします。人工肛門なら、こうした問題は回避できるメリットはあります」
村田医師は、小腸の一部を腹部の外に出して肛門代わりにする、一時的な人工肛門を使う肛門温存も選択肢だという。
「術後は小腸につくった人工肛門から便を出すことで、もともとの肛門の負担を軽減します。がんを取りきることを前提にした場合の、永久人工肛門、一時的人工肛門、肛門温存の可能性をパーセントでお伝えして、患者さんの考えを確認します」
直腸がんの手術で括約筋を切除して肛門を温存する場合にも、再発リスクに備え、術後に補助的な抗がん薬治療(化学療法)を加える場合がある。
塩澤医師は一時的人工肛門を造設した人は、この術後化学療法を受けにくいという。
「一時的人工肛門で水分が吸収されていない便が出ることに加え、抗がん薬による下痢の副作用も重なることになり、脱水に注意が必要になるからです」