ヤマザキ:原稿を見ながら、っていうのは肝心な部分だけでいいから、できればやめてもらいたいですね。言うべきことが頭に入ってないのだろうか、と見ているこちらが不安になる。

池上:お見舞いをするときには、原稿などを読まずにカメラに向かって話せばいいんです。「とにかく東北の人たちも不安でしょうから、政府は全力をあげて、これから取り組みをいたします。どうか頑張ってください」というお見舞いの言葉の後に、その対策ですけどって、原稿を読めばいいんですよ。

ヤマザキ:そうですよね。まずは心からの言葉です。一国のリーダーたる位置にいる人が言うべき言葉っていうのは、心からの言葉であってほしいと思うわけですよね。

 なぜドイツのメルケル首相の演説に、みな心を掴まれたかというと、やっぱり彼女が自分の言葉で話しかけたからですよね。誰もが彼女を真似するべきとは全く思っていませんが、民衆が求めているリーダーとしての一つの例だとは思います。メルケルは「このような状況下で日々スーパーのレジに座っているあなた」「毎日スーパーの商棚を補充しているあなた」「医療に従事しているあなた」といふうに二人称を使った。二人称は直接言葉をかけられているような効果がありますし、疲れている人はしっかり受け止めるでしょう。激励をするのであれば二人称は効果的です。ただ日本では不向きかもしれない。

池上:日本は「皆さん」ですからね。皆さんって、ものすごく曖昧ですよね。

ヤマザキ:急に「あなた」と言われても「え、何? 馴れ馴れしい」と思うでしょう。私もきっとそう思う。だからせめてじっと画面を見つめて、手元の紙を読まずに「皆さん」でいいので自分の心を言語化した言葉で激励してくれたらいいのに、と思ってしまいます。

池上:メリハリをつければいいんですよ。原稿を見なければいけない大事なところは確かにあるし、言い間違えちゃいけないところはあるから、そこは見ればいい。そうじゃないところはやっぱり、まずは見ないで心からの言葉を発してからですよね。

 今回、コロナ禍という危機に陥ったからこそ、政府が何を言おうと何をやろうと、一喜一憂しないで自分を持たなければいけないということを強く思いました。政府はむしろ反面教師として、私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

ヤマザキ:それはありますね。何度も言いますが、自分自身の頭で考えて、考えを言語化して、言葉に出し、話し合うっていうことしかないと思います。この不安のなか少しでも前に進んでいくには。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2021年3月1日号より抜粋

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