国内でもワクチン接種が始まり、新規感染者数の減少傾向が続く新型コロナ。専門家によると、コロナ研究の中で新たな事実が判明したという。AERA 2021年3月1日号では、医学の専門家である二人にコロナウイルスの新事実と今後の対策について知見を伺った。
* * *
新型コロナは、医学界に多くの新発見ももたらした。
コロナウイルスのスパイクと結合する受容体ACE2(アンギオテンシン変換酵素)は、血管の細胞膜表面にあるたんぱく質だが、心臓や肺以外の全身に広く分布していることがわかったのは、新型コロナウイルス感染の研究成果だという。風邪の症状としても知られている嗅覚障害や味覚障害が新型コロナで改めて話題になったが、これも鼻粘膜や舌の表面にもACE2があるためだ。他にも様々な症状や後遺症が報告されているが、これらもACE2が存在している部位と関係がある。
大阪市立大学名誉教授で分子病態学が専門の井上正康さん(75)は、新型コロナ研究についてこのように述べた。
「当初『武漢肺炎』と伝えられたことから、インフルエンザのように重症化は肺炎になると誤解されていましたが、実際は腸をはじめとする様々な臓器の血管壁にウイルスが取り付き血栓症として全身症状を引き起こし、その一部に間質性肺炎があることがわかりました。実は従来の風邪ウイルスによる病態も同様だということが、新型コロナ研究によってわかったのです」
新たな知見をもたらしたのは、皮肉にも新型コロナの感染力の強さだったという。
「新型コロナは変異でスパイクの数が増えてACE2との結合力が強くなり、最終的に感染力が6倍強くなりました。結果的に世界中の人々の感染する機会も6倍増えて、未解明だったコロナウイルスの病態解明につながっているとも言えます」
ワクチン接種については、井上さんはこう慎重な姿勢を示した。「新型コロナの感染力は強いが国内での重症化率や致死率は低い。ワクチンはSARSやMERSのような強毒株が現れた時のために備蓄しておくべき資源で、いま直ちに接種を推進するべきではない」