映画では、アレックスを囲む人々の多様な人生も描かれる。表現の仕方は違っても、彼らはみなアレックスに力いっぱいエールを送る。

 現実の社会でも、ヴェテールの幼い頃に比べ人々の意識は変わってきているように感じるという。「変化のスピードが遅いという人もいるけれど、なかなか受け入れられない人がいるのも理解できるから、時間がかかって当然」という思いもある。

 映像作品への出演オファーは続き、演じるのが楽しみで仕方がない役も控えているのだとか。

「幼い頃の自分は感受性が強すぎることがあったけれど、いまはその感受性をどのように使っていくべきなのかがわかるようになりました。自分の居場所を見つけた気がします。いま自分がいる場所がとても好きなんです」

◎「MISS ミス・フランスになりたい!」
ボクシングジムで手伝いをしていたアレックスは、「ミス・フランスになる」という夢に挑む。2月26日公開

■もう1本おすすめDVD「Girl/ガール」

「MISS ミス・フランスになりたい!」の主人公アレックスを深い愛情で包む周囲の人々の姿を見て思い出したのが、映画「Girl/ガール」(2018年)の主人公ララの父親の存在だ。ララ(ヴィクトール・ポルスター)は男性の体でバレリーナを目指すが、思春期を迎え、自分ではどうにもならない体の変化を突きつけられる。

 父親はごくごく自然に彼女を「ララ」と呼び、毎日バレエのレッスンに向かう彼女を送り出し、幸せを願う。なかなか理解できない親との軋轢を描く時代は終わった、という監督の意思を感じた。

 監督はこれが初長編作となるベルギーのルーカス・ドン。胸が張り裂けそうなほど衝撃的なラストは賛否両論を生んだが、ララがトウシューズを履くときに感じるヒリヒリとする痛み、ホルモン剤の注射を打ちながらバレリーナを目指す身体的な痛み、胸の痛みが画面越しにも伝わってきた。

 性別にとらわれず自分らしく生きようとする主人公と周囲の人々の姿は、グザヴィエ・ドラン監督の「わたしはロランス」(12年)、フランソワ・オゾン監督の「彼は秘密の女ともだち」(14年)でも描かれており、こちらも必見だ。

◎「Girl/ガール」
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
価格4800円+税/Blu−ray+DVDセット発売中

AERA 2021年3月1日号

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