AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「MISS ミス・フランスになりたい!」の場面カットはこちら】
* * *
芯の強さを感じさせる、凛(りん)とした佇まい。ユニセックスモデルとして活躍するアレクサンドル・ヴェテール(34)は主演作「MISS ミス・フランスになりたい!」で眩いほどの輝きを放つ。
アレックス(ヴェテール)の幼い頃の夢は、「ミス・フランス」のコンテストで優勝すること。年を重ねるにつれ諦(あきら)めていたが、夢をかなえた友人の姿を目にしたことで、男性であることを隠してコンテストに臨む決意をする。
ヴェテール自身、幼い頃から化粧をしたりするのが好きで、自身のなかに女性的な部分が存在するのを感じていた。2016年にジャン=ポール・ゴルチエのウィメンズのショーに出演し注目を集めるが、映画の主演は初めて。この作品に出演したことで、自身の「美しさ」に対する考えにも変化が生まれたという。
「他者に対し、自分の女性的な部分を正当化する必要性を感じていた時期もあったんです。でも、いまは化粧をしたいならすればいい、どんなときも自分自身でいればいい、と思えるようになりました。磨くべきものは、自分の内側にある。そのことに気づき、少し大人になれたような気がしています」
撮影現場で、ルーベン・アウヴェス監督は「君ならこの言葉をどう口にする?」と常に問いかけ、演じ方を委ねてくれた。
「主人公の気持ちが痛いほどわかり、胸がいっぱいになって、撮影中は毎日泣いていました。涙を流さなかった日は一日もないんじゃないかな。ハンカチを買い替えるのが大変だったけれど(笑)」
モデルから俳優の道へと足を踏み入れ、わかったことがある。モデルは自分の良いところだけを見せればいい。だが、俳優は欠点も含め、“本物であること”が求められる。
「自分自身が本物のなかを生き、本当の感情を観客に届ける。“本物”とはとても繊細なもので、ときに醜いものもあれば、納得がいかないものもある。人生にはさまざまな側面があり、それぞれ違うからこそ、それは外見的な美しさを追求するよりも、ずっと面白いものだと思うんです」