「ウイルスとは超顕微鏡的大きさ(約二〇~二六〇ミリミクロン)を有し、生物に寄生し、生きた細胞内でのみ増殖する微粒子。形は球状、棒状などの他、頭部と尾部とをもつものもある……」

 広辞苑はそう説明している。それ以外に「ウィリス」といえば「イギリスの医者、戊辰戦役に官軍のために治療に従事云々」というのがあるだけである。仕方なく(したくはないが)私は娘を書斎に呼んだ。パソコンがウイルスに感染したってどういうこと? 娘は「またかいな」という顔になった。面倒くさそうにいった。

「ウイルスってのはパソコンを壊してしまうデーターのことよ」

「ふーん」といった後、私は少し黙り、それから呟いた。「何のことか、さっぱりわからん……」そしていわでものことを言った。

「広辞苑で調べたら、形は球状、棒状などあって頭と尻尾があるって書いてあったけど」

「それって、いつの広辞苑?」

 えらそうに娘はいい、机の上の広辞苑を開いていった。

「なにこれ、昭和三十年五月に発行されてるんじゃないの。新しいのを買いなさいよ」

 それは表紙裏おもて、手ずれどころかガムテープを二重三重に貼ってそれでもボロボロは隠せないといった代物(しろもの)で、私が三十才を幾つか過ぎた頃、正式にというのもおかしいが、小説家を目ざそうと、本気になった時に買ったものである。昭和三十年じゃ、インターネットなんて影も形もないもんね、と娘はいい、「新しいのを買いなさいよ」といって部屋を出ていった。

 その後、私はインターネットの勉強を始めた。孫が先生である。新しく買って来たノートに書いた。

「ケイタイ。
 相手を呼び出し、会話する。(電話の機能)
 メールのやりとり。
 カメラ撮影」

「パソコン(パーソナルコンピューター)
 あらゆるジャンルの情報が詰っている。
 わからない文字、その意味などすぐわかる。
 文書作成。小説も書ける。
 計算も出来る」

 何しろ孫が先生だから、書き方にとりとめがない。わかったような、わからないようなハッキリしない頭で私は書く。

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