「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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ローソンの社長になるまでに、営業、広報、社長秘書など様々な仕事を経験してきました。どの仕事もやりがいがあり、日々が発見の連続。その中でも色濃く記憶に残っていることがあります。
社会人になってまもなくのことです。輸入自由化の影響で大きな在庫となった牛肉を売りきるというミッションに向き合ったことがありました。電話帳を片手に飛び込みで各地のスーパーに営業をする日々。なんとか店頭販売にこぎつけると、会社の業務後や土日に現場に行き、エプロンをつけて販売員として働きました。
店頭だけではなくバックヤードやプロセスセンターで働く従業員の方に、好まれる肉の部位や肉のカットの仕方などのアドバイスをもらい、それを販売に生かしていく。お客様に10グラムでも20グラムでも多く買っていただくと、それが店の売り上げになります。そのためにどうすればいいのか、思考を巡らせることが何より楽しかった。販売量も増えていきました。
あまりオフィスにいることはなく、上司には「竹増って今日どこにいるの?」と思われていたかもしれません。それぐらい現場にはたくさんの気付きがありました。
お客様がお肉を目の前で試食される様子や、お肉を口に入れた瞬間の子どもたちの表情はオフィスからは見えません。本社でパソコンと向き合いデータを見ることも大切ではありますが、お店には数字には見えない真実がありました。
今も加盟店のオーナーさんや、働いているみなさんに話を聞くということを大切にしています。本社でやろうとしていることがお客様にとって良いことなのか、そしてお店の状況に合っているのかをきちんと確かめていく。
まずは現場から。社長になった今も一番大切にしています。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2021年3月8日号