不遇な猫を減らしたい――。周辺の野良猫を保護するうちに、いつの間にか猫が闊歩する美容室になっていた。常駐スタッフ猫5匹のほか、春先は一時預かりの子猫が増える。引き取り手は客だ。店長の口癖は「抱かせたらこっちのもん」だ。NyAERA2021「人生を変えた猫」から。
■ソーシャルディスタンスを啓発
この美容室の主は、もしかしたら猫なのかもしれない。そう合点したのは、訪れてしばらくしたときだった。
店内を、堂々と闊歩しているのは茶トラのとぅえるぶ(11歳、オス)。まるで「美容室の平和はぼくが守る」と言わんばかりの顔つきだ。
窓に面した座席では、黒猫の小梅(14歳、メス)とぷりてぃ(11歳、メス)がのんびり日向ぼっこをしている。店の奥のケージには、「筋金入りの人見知り」というシャルルが隠れていた。
猫たちの姿はソーシャルディスタンスを啓発するかのようだ。
猫スタッフたちの執事、梅村早織さんが言う。
「いまは5匹の猫が暮らしています。みんなこのあたりで保護した子たちです」
■子猫の里親探しまで
きっかけは、2006年、美容室に通い猫のさすけが現れたことだった。自動ドアをあけて入ってきて、営業時間中は店内で過ごすようになった。店で引き取る決意を固め、ワクチンを接種した1週間後、残念ながら交通事故にあって亡くなった。
以来、美容室JAMのスタッフたちは、不遇な野良猫を減らすべく、猫を保護しては、美容室につれてくる。例年、子猫が生まれる春は大忙しだ。美容室の猫スタッフになった子もいるが、基本は里親を探して譲渡する。美容室には子猫アルバムがあり、歴代の保護子猫たちの写真がずらりと並ぶ。
この日、カットに訪れた男性常連客も、自宅に2匹、猫を引き取ったという。
店長の小宮山康弘さんは男性と世間話をしながら、「猫好きの常連さんが多い」と豪快に笑った。
「なに、抱かせたらこっちの勝ちですから」
小宮山さん自身、以前は犬派だったというが、すっかり「猫にやられた」一人。
美容室の顧客カードには、「猫」という欄がある。
「店の外から猫がいるのが見えるので、それをきっかけに来てくれるお客様もいますし、初めての人には『猫がいますが大丈夫ですか?』と確認するようにしています」(梅村さん)
梅村さんの優しい視線の先で、とぅえるぶがゆったり伸びをした。
(編集部・熊澤志保)
※AERA増刊「NyAERA2021」の特集「人生を変えた猫」から