イスラエルや日本のような公的医療制度が完備された国は、米国やそれがない他の国々に比べて優位に立っていると私は思います。日本に住んでいたころ、私は日本の公的医療制度とその高いアクセシビリティーに非常に感銘を受けました。私が学生時代に加入していた国民健康保険制度は、比較的安くて使いやすいものでした。訪れた病院は設備が整っており、ちょっとした病気サッカーで足首を捻挫したときにかかった近所の診療所は、とても親切で便利でした。

 もう一つ、政治との関係もあります。イスラエルでワクチン接種キャンペーンを前進させることには、強い政治的意志が働いています。現在、長期政権を続けるベンヤミン・ネタニヤフ首相は、コロナによって国の経済が大きな打撃を受けたため、3月に行われる総選挙の結果、再任されない可能性が高くなっています。そのためネタニヤフ首相は選挙前にいくつかの成果を国民に示し、選挙を有利に持っていきたいと考えています。したがって、彼はこのワクチン接種キャンペーンを指導し、官僚の困難の解決を助け、さらに多くのワクチンを確保するためにファイザー社やモデルナ社と自身で交渉さえ行っています。

 最後に、ワクチンの接種を受けることへの多くの人の心配について答えたいと思います。イスラエルでもワクチン接種キャンペーンが始まる前に、人々が協力せず、ワクチン接種を受けに来ないのではないかという懸念がありました。しかし今のところ、それは起こっていません。多くのイスラエル人がワクチン接種を希望してやってきました。このイスラエルの経験に鑑みると、科学者たちにワクチン接種が安全であることを説明してもらうだけでは不十分です。コミュニティーのリーダーがそのコミュニティーの人々にワクチンの接種を奨励することも、とても重要な要素です。

 願わくば、イスラエルがコロナ禍からの回復の道を歩んでいることを期待します。そして日本で順調にワクチンの接種が進み、オリンピック開催の時期には国民に行き渡り、ワクチンの効果が有効になっていることを願います。

Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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