郡山女子大学附属高校合唱部の部長、2年生の比佐鈴音(ひさすずね)さんも、そんな人たちに歌を届けたいと語る。

 10年前、福島県の中通りにあった自宅は地震で家具が散乱し停電もしたが、一緒に暮らす家族は無事だった。しかし太平洋沿岸部に住んでいた祖母の家が津波で流された。祖母は無事だったものの、帰る場所がなくなり、今も避難先で暮らす。祖母はあまり話さないが、震災が祖母の心に残した爪痕は深いと感じている。

「同じように、帰れない故郷を思い浮かべている人に、離れていてもつながっているということを歌で感じてほしい」

 そんな比佐さんが、音楽祭で特に思いを込めて歌うのは「群青」だ。この曲は、福島県沿岸部の南相馬市の市立小高(おだか)中学の12年度の卒業生たちがつくった合唱曲。歌詞には、故郷への思いと原発事故で散り散りになった友への思いが込められている。

<また会おう 群青の街で>

 この歌詞に比佐さんは、絶対に復興してまたみんなで幸せな日々を取り戻そうというメッセージを感じる。力強く話す。

「歌詞をかみしめながら歌ったので、聞いてくださる方たちに伝わったらうれしい」

■震災経験したからこそ

 同じく、郡山女子大学附属高校合唱部の副部長、1年生の根本奈々実(ななみ)さんは、震災を経験した自分たちだからこそ、伝えられるメッセージがあるという。

 自宅は大きな被害はなかったが、大切な人を亡くし友だちと離れ離れになる人をテレビで見てきた。それが自分の立場だったら、とよく考える。音楽祭では東日本大震災だけでなく、コロナや2月中旬に東北を襲った最大震度6強の地震で苦しんでいる人たちにも歌を届けたいと話す。

「少しでも、私たちの歌声を通じて前向きになってくれればいいなと思います」

 歌は、未来をつくる原動力でもある。

 冒頭で紹介した石橋さんは、

「歌っていると勇気をもらえ、熱い気持ちになれます」

 と声を弾ませる。

次のページ