しかし、本人の考えは違った。エメリが「19歳ながらすでに選手として成熟している。だが、彼はもうすべてを求めてしまっている」と表現していたが、自身の成長のために毎週90分の出場機会を求めた。所属するレアル・マドリーも同様の考えの下、1月に新たな移籍先を模索。同じくマドリード州に本拠を置くヘタフェへと鞍替えすることとなったのだ。若い選手を積極的に起用する伝統を持ち、久保にとっても最適であるプレースタイルを志向し、欧州でも実績のある指揮官が長期的なプランで成長曲線を描こうとしていた環境を、半年で離れることになった。
確かにリーグ戦では途中出場がほとんどであり、時には5分にも満たない試合もあった。個人技やセンスはチームでも傑出していた。だが、ジェラール・モレノやパコ・アルカセルといった選手ほど結果を残せていないのは事実であり、ライバルと目されていたモイ・ゴメスほど守備強度や攻撃構築の場面で存在感を発揮できないのも、また事実であった。チャンピオンズリーグ出場を目指すクラブの中でポジションを掴めないのは、力不足であることが真実だった。
それでも本人がより多くの出場機会を望んだのは、いち早い成長への願望と確固たる自信、明確なプレーへの意志があったからだろう。その証拠に、ヘタフェでのデビュー戦となった第18節エルチェ戦、記録的な大雪の影響で練習にさえ参加できなかったが、26分の出場で2ゴールに絡んで見せた。目を爛々と輝かせ、あふれる意欲をピッチ上に解き放っていた。その才能が本物であることを、あらためて証明していた。
昨夏の時点で久保の加入を熱望していたホセ・ボルダラスのチームは、同じタイミングでバルセロナの下部組織出身であるカルレス・アレニャもレンタルで引き入れた。ラ・リーガでも珍しくフィジカル重視で激しい肉弾戦を伴う堅守速攻を目指してきた彼らにとって、足下の技術とパスワーク、狭いスペースで勝負する若き2人は異質な存在。そのため、スペイン国内でもこのディールには驚きの声も上がっていた。
そして、エルチェ戦での活躍。『ムンド・デポルティーボ』は「彼らが主人公。ヘタフェを進化させる」と絶賛している。その後4試合、久保は右サイドを中心に先発でのプレー機会を得た。アレニャとともに、得点力不足に苦しむチームの中で決定的な存在になることを求められた。
だが、結果が出なかった。両者が揃って先発した試合でヘタフェは1勝1分け2敗、2得点8失点。ピッチ上でも目立った活躍は見せることができず、存在感が希薄となっていく。そして自身の進退も怪しくなってきたボルダラスは、少しだけ緩めていた堅守速攻のスタイルを回帰。久保が務めていた右サイドには、190cmで強靭な肉体を持つアラン・ニョムが戻った。