相続争い、いわゆる“争族”は、分ける財産が多い富裕層よりも、分ける財産が少ない一般の家庭のほうが、むしろ起きやすいという。
どうすれば争いを食い止められるのか……現在発売中の『定年後からのお金と暮らし2021』で取材した。
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相続争いは、なぜなくならないのだろうか。
■相続人が遺産分割でもめる4つの理由
三井住友信託銀行のフェロー主管財務コンサルタント・稲熊里志さんによると、「権利意識、平等意識の高まり、家族関係の希薄化、亡くなった人の不明確な意思」の4つが背景にあるという。
「個人の幸せや利益を第一に考える世相が強まり、公的年金に対する不安も増していることから、『もらえるものはもらっておきたい』という人が多くなったように思います」(稲熊さん)
子どもは長子か否かによらず法定相続分は平等だ(図表6)。しかし、長男夫婦が介護状態になった親を最後まで世話して看取ったようなケースで、次男が遺産分割で平等を主張したら、おそらく長男は立腹するだろう。
それも日頃疎遠がちだと、いざ相続のときに打ち解けて話し合うのはなかなか難しい。遺言書がない場合は、話し合いはこじれるばかりだ。
■3つの相続対策で家庭円満を維持する
“争族”防止のために、ポイントとなるのが次の3つ。遺産分割対策、相続手続き対策、そして相続税対策である。
【1】遺産分割対策
遺産分割対策の核となるのが「遺言書」。遺言書がないと、相続人全員による遺産分割協議が必要になる。しかし、相続人が多かったり、家族仲が悪かったり、会ったこともないような相続人がいたりすると、なかなか遺産分割協議はまとまらない。
“争族”はあらゆる家庭で発生する可能性がある。「うちの子どもたちは仲がいいから」といっても、子どもの配偶者が口をはさむこともある。
「もめるほどの財産はない」と思っても、少ない財産の中でより多く勝ち取ろうとして、逆に争いが起きやすくなる。楽観的な考えは悲劇を生みかねない。“争族”防止のためには、やはり遺言書が必要となる。