エレパレより10年以上先輩の芸人・レイザーラモンRG氏の反応にヒントがある。彼はもともとニューヨークチャンネルの愛好者で、公開直後にラジオで「エレパレ」をいち早く紹介。放送中にテーマソングをアカペラで熱唱し感涙しただけでなく、2020年末に放送されたTBS系「クイズ☆正解は一年後」にエレパレTシャツを着て出演し、カメラに向かって手で「エレパレポーズ」を見せつけた。コンビのYouTubeチャンネルでも熱く語ったRG氏だが、興味深いのは、エレパレ本体についての言及は動画の序盤で済まされ、残り時間の大半は「若い頃、自分たちにもエレパレのような時期があったな」という回想に割かれていたことだ。これが「エレパレ」の魔力なのだ。
映画の終盤、「黒幕」と祭り上げられた人物がニューヨークチームに反撃するスリリングな展開がある。「ニューヨークもエレパレですよ」。そう言ってニューヨークの二人をじっと見つめた彼は最後に一言「みんな、エレパレ」。それまで赤の他人の黒歴史をのぞき見する感覚で見ていた我々も同時に見つめ返される感覚に陥る。若気の至りで一軍を気取ってしまった経験のある人は多くないかもしれないが、「群れることで全能感に酔い、主人公になれた時期」と定義を拡張されると話は別だ。劇中ではあくまで芸人同士の丁々発止の言葉遊びとして処理されるが、鑑賞後にはリアルな感覚として尾を引く。幼年期、学生時代、職場、家族……人生のどこかに自分にとっての「エレパレ」があったのではないか……。我々はそれを懺悔のように語りたくなってしまう。
聞いたこともなかった「エレパレ」という固有名詞がたった2時間で一般名詞のように大きくなり、自分の人生の一部分を塗りつぶしてくる貴重な体験。「黒幕」役の人物の突出した言語化能力が遺憾なく発揮されるクライマックスだ(彼の前職も言語を扱う特殊な職業であることは示唆的だ)。「青春」とも「若気の至り」とも表現し切れない「エレパレ」という概念を知ってしまったが最後、もう戻れない。目を背けてきた、痛くも心地よかったおのおのの「あの時代」に無理やり引き戻される呪いのような映画だ。