写真はイメージです(C)GettyImages
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旦木瑞穂:愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを経て2015年に独立。葬儀・お墓・ダブルケア/シングル介護・PMS/PMDDに関する執筆のほか、紙媒体の企画編集・デザイン、イラスト制作を行う。
旦木瑞穂:愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを経て2015年に独立。葬儀・お墓・ダブルケア/シングル介護・PMS/PMDDに関する執筆のほか、紙媒体の企画編集・デザイン、イラスト制作を行う。

親の背を見て子は育つ。子どもは親の生き様から学ぶという意味だとすれば、おそらく死に様にも同様なことがいえるだろう。だが、死に方を親から学ぶのは難しい時代だ。元気な頃から死後について話し合うのははばかられるし、離れて暮らしていればその機会すら得られない。しかし、死は誰にも必ず訪れる。「親のような死に方はしたくない」という人がいる。「親の死」を反面教師にする人は、親を看取るまでに何を感じ、何を学び取ったのか。親の死に目の後にしか得られない、先の話に耳を傾けてみたい。

【表】亡くなる前にやっておきたい55のこと

■父親の異変

「お父さんが健康診断で引っかかった。再検査を受けてって言ってるのに、ちっとも行ってくれない」

 小倉実果さん(仮名・現在40代)は2018年春、当時72歳の母親からこんなメールを受け取っていた。

 しかし最低限の返信しかしない。小倉さんは20代で結婚後、夫の転勤を理由に、できるだけ両親から距離をおいている。

 小倉さんの父親は、どうやら心臓に何らかの疾患があるらしいことが分かっていたが、父親は再検査を頑なに拒否。

 父親は60歳で定年後、パートで働いていたが、69歳頃に辞職すると、両親は2匹の子犬を飼い始めた。両親は子犬たちを、散歩に連れて行ったり買物に行ったりと、変わりなく過ごしていたようだが、2018年の冬、父親は入浴中に心臓発作を起こし、浴槽内で溺死。母親が異変に気づき、浴室に駆けつけたときにはすでに手遅れだった。

■毒親だった両親

 小倉さんは中学生のとき、妹とオセロをして遊んでいたら、突然父親に後ろから何度も何度も頭を殴られ、後頭部から大量に出血。「まずい」と思った父親は自ら救急車を呼んだ。

 その際、父親は「医者に、俺がやったと言うなよ」と釘を刺し、搬送先の病院で「娘が夜、屋外の物置に入り込み、上から道具箱が落ちてきて頭部にケガをしたようです」と説明。医師は「そんなことでこんな怪我はしないです」と言いつつも、それ以上深く追求はしなかった。

 小倉さんは傷を縫うために髪を剃られ、数針縫う処置をしてもらい、大きなガーゼを当てて学校へ行くと、友人たちから「どうしたの?」と聞かれる。小倉さんは「夜、物置に入って……」と父親に言われた通りに説明し、「馬鹿だねえ~」と笑われると、「えへへ」と笑うしかなかった。

 さらにおかしなことに、母親はそのとき一部始終を見ていたにもかかわらず、「針金のハンガーで自分の頭を傷つけた。だからお前が悪い!」と言い捨て、小倉さんは愕然とした。

■両親による洗脳

 小倉さんは、物心ついた頃から両親のことを、「理屈の通らない、事実よりも自分の妄想や思い込みを優先する、おかしな人たちだ」と感じてはいたが、両親から繰り返し「間違っているのはお前。親は正しく賢いものである」と言われてきたため、そう思い込んでいた。

「両親は非常識で、暴力と暴言がいつも私の日常の中にありました。とても他人には言えないような言葉で私を呼んでいた……ということだけでも十分察していただけると思います。親の暴行により死亡する子どももいますから、私の経験は軽いほうかもしれませんが、両親との良い思い出はひとつもありません」

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理想の死に方とは?