AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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本年度アカデミー賞最有力とされる「ミナリ」。監督・脚本のリー・アイザック・チョン(42)は「君の名は。」のハリウッド実写版の監督に抜てきされた注目の人だ。本作は自身の幼少期の経験をもとに、1980年代にアメリカ・アーカンソー州の農場にやってきた韓国系移民一家の日々を描いている。移民の苦しみではなく家族の物語をシンプルに描写し、誰もの心の琴線に触れる作品になった。
「アーカンソーで育ったころ、僕の頭の中にあったのは99%自分の家族と日々の生活のことでした。白人と自分との関係や、自分たちが周りにどんなふうに見られているか、などを考えたりはしなかった。それに大地と向き合って暮らす農家の人々には、どこか多様な文化を受け入れる感覚がある。本作はそうした視点から描こうと思いました」
監督自身を映すキャラクターは父と母、姉と暮らす末っ子デビッド。いたずらっ子だが心臓に病を抱え両親をやきもきさせている。そんなとき、韓国から祖母がやってくる。
「私自身も子ども時代に心雑音がありましたが、いまはもうすっかり元気です。それに実はデビッドよりはるかに悪ガキだったんです(笑)」
映画のテーマには「大地」もある。父が畑に水を引き、野菜を育てようと悪戦苦闘するいっぽうで、マイペースな祖母は小川をみつけ、水辺に韓国から持参したセリを何げなく植える。タイトルのミナリは韓国語でセリを意味する。
「人の大地へのアプローチは人生に対するそれとよく似ています。劇中で父は作物を作ろうと闘いますが、祖母は水辺に育ちやすい植物を植える。人生も同じですよね。闘いながら生きる人もいれば、さまざまなことを受け入れて生きる人もいる。現代ではより自然の声に耳を傾けることが大切ではないかなと感じています」