「ジェンダー不平等の問題は個人でどうこうできる問題ではない。自分の子どもをどうするかよりも、もっと大きいほうに呼びかけるのが大事」
■女性器の呼び方がない
田房さんは、子どもは親よりも社会からの影響を圧倒的に大きく受けると考えている。田房さんが今問題だと思っているのは、子育ての中で女性器を示す共通言語がないこと。男の子の「おちんちん」と対になる言葉がなく、女の子の場合「お股」などと曖昧に言われることが多い。
「女性は“おちんちんのない性”なのではなく“女性器のある性”です。それなのに呼び方がないのはおかしいと思うんです」
出産前の母親学級で習う赤ちゃんの股間の洗い方も、女の子については教えてくれず娘が生まれたときに悩んだ経験もある。田房家では「まんまん」と呼んでいた時期もあるが、世間での共通認識がないから、保育園に入園すると呼ばせづらくなった。
「各家庭でやってもしょうがないので、『令和』みたいに決めて発表してもらいたいですよね」
性教育は昨今大きな注目を集めている分野だ。それはジェンダー不平等の問題と決して無関係ではない。
「性教育は日本だとセックスの話というイメージが強いですが、本来は健康と幸福の学問で、ジェンダー理解など幅広い内容が含まれているんです」
そう説明するのは、13万部超のベストセラー『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』の共著者、フクチマミさん。このコミックエッセイは、フクチさんが長女の性教育で悩んでいたとき、長年性教育に携わってきた教育者の村瀬幸浩さんと出会ったことをきっかけに作られた。
■自分も他者も大切に
例えば本では、口、胸、性器、おしりのプライベートパーツは自分だけの大切なもので、親であっても勝手に触ったり見たりしてはいけないことが説明されている。命に直接関係する場所なので、お世話や看護以外で触るのはNG。大人が線引きをしなければ、プライベートパーツを勝手に触るのが「好き」の表現だと子どもが間違えて学んでしまうという。
他にも、自分や相手のNOを尊重するなどの意識が育まれれば、自己肯定感も高まり、自分も相手も大切にできる人間になる。
「性教育のベースには人権があるので、大人も学ぶことでホッとできる。今まで自分が穢(けが)れていると思って傷ついていた人が、そうではなかったと気づくこともあります」
ジェンダー不平等という負の連鎖を次世代へ持ち越さないために、自分と他者を大切にすること。まずはそこがスタート地点なのだ。(編集部・高橋有紀)
※AERA 2021年3月15日号