さて、春といえば花見だけど、印象的だったのは上野公園へ初めて行ったときだね。相撲に入って上京してからなんだけど、花見客でにぎわっている上野公園を見たときはあまりの人の多さにびっくりした! 福井の田舎から出てきた15歳そこそこのあんちゃんにとっては、上野公園の花見は壮観で圧倒されたね。「これが東京の花見か!」って(笑)。
そんな東京の人出にも慣れてきたころに、相撲部屋の仲間と一緒に上野公園にガールハントしに行ったもんだよ。まあ、今でこそ力士は若い子にも人気だけど、当時はモテなくてね。おばちゃんたちにはウケはいんだが……。ガールハントの成果? 成功した覚えはないなぁ(苦笑)。
一方、嶋田家の花見は大々的にやったりしない。今では特に、車で桜並木を通るのが小さな楽しみだね。寿司店をやっていたころは2階の店の窓からちょうど桜並木が見えてね。プロレスラーたちを集めて花見がてらに食事会を開くんだけど、ほとんど誰も桜なんか見ちゃいなかったなぁ……。
相撲時代の春の思い出といえば、やはり春場所(大阪場所)になるね。俺が初めて序の口になったのも春場所だったしね。若い衆はお寺に泊めてもらうんだけど、そこで見ていると大阪の人たちはお墓参りや供養とか、伝統的なことをとても大切にしているんだなと実感した。お坊さんもしょっちゅう法要していたり、檀家さんがひっきりなしにお参りに来ていたりね。
まあ、俺たちはそんな信心深い方が来るお寺の墓に、先輩力士のまわしを干したりして、住職の奥さんに怒られたりしたもんだが(笑)。稽古が終わった後は、汗まみれになったまわしを干す必要があるんだけど、お寺に泊っているとちょうどいい干し場が、どうしても墓地になっちゃうんだよ、広いから。
あ、干す場所はさすがに墓石の上じゃなくて、下の方だよ。日当たりがいいからね。それを見つけて奥さんが「お墓にまわしを干すんじゃないー!」「先祖代々のお墓にまわしなんかけけるな!」ってものすごい剣幕で怒鳴りまくっている! こっちもまわしをちゃんと干してないと、どっちにしろ先輩に怒鳴られるから大変だ。まあ、いろいろと大目に見てもらっていたと思うよ、きっと(笑)。春場所の季節になると今でもこのことを思い出すよ。