競泳ではラップタイムを見ると何を目指しているか見えてきます。ライバルとコーチが、何を意図して、どういうレースの組み立てに持っていきたいのか、ラップタイムから読み取れることが多いのです。たとえば前半から飛び出すのが持ち味のライバルが、自信満々にそのレースをやり遂げたことがラップタイムからわかると、直接対決の前に自信を失ってしまうことにもつながります。逆に自分が堂々と「得意技」を披露できれば、優位な立場で戦うことができます。

 選考会や五輪に挑むとき、レース当日にまっさらな状態でカーテンが開いて勝負が始まるわけではありません。それ以前にライバルの記録が耳に入ってきて、心をかき乱されることもあります。それをはね返す気持ちを持つには、やはり、決めていた練習をやり続けることです。自分のやるべきことに集中する。それが結果を出すための一番の近道だと思います。

 相手からすると「あいつは本当に集中して、やるべきことがわかっている。ライバルであるおれのことなんて目も掛けないで、自分のレースをしている」というのが一番怖いのです。

 指導者としては、大会が近づくこの時期に悩まないように、その前の段階で考えて考えて考え抜くことが肝心です。答えは一つではないし、時期によって戦法も気持ちの持ち方も変わっていきます。目標の大会が近づくに従って、決めたことをやるという、シンプルなやり方になっていくのが一番いい。日本選手権に向けて、これからそういう時期に入っていきます。(構成 本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2021年3月19日号

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