■赤ちゃんが言葉を獲得する過程とぴったり重なる
大澤さんのことを「天才児っぽくない天才児」と評するのは大澤研究室研究員兼RINGSスタッフの中沢剛さん(40)だ。多くのベンチャー企業のコンサルなどを務めてきた中沢さんは「『俺はできる』という感じのベンチャー経営者はたくさん見てきましたが、みんながみんなのリーダーになり、フォロワーになるという世界観はもう一つ先にある世界だな、と共感しました」と話す。「大澤さんを個人としてみると、いい奴だな、って思います」
人が人とのかかわりの中で成長していくように、大澤さんはミニドラもドラえもんへ成長させていくことを企図している。ミニドラの完成形は「ドラドラ」という言葉だけで人間と完璧なコミュニケーションを図れるようになることだ。そのロボットに「パパ」「ママ」と発話させたり、「ママ大好き」といった語彙を増やしたりするのは技術的に難しくないという。
「それって人間の赤ちゃんが言葉を獲得していく過程にぴったり重なります。僕は地球上の70億人でドラえもんをつくりたいと思っています」(大澤さん)
「ドラドラ」という単語だけでコミュニケーションできるロボットがいたら、みんな会話したいと思うだろう。そうして集まった大量のデータから言語を獲得し、ドラえもんになっていくイメージだ。みんながちょっとしたかかわりをもつことが、人間らしく振る舞うロボットの糧になる、というわけだ。
気になるのは完成時期だ。大澤さんは30年のプロジェクト期間を見込む。理想のミニドラをつくるのに10年、「大澤版ドラえもん」の完成までに20年。まずはミニドラに取り組む足場を5年で固めるつもりだ。
「失敗したら何も残らないリスキーな闘いに挑んでいます。自分だけではなく、かかわってくれる全員を幸せにしたい。そういう生き方をするための人生選択をしました」(同)
人を幸せにすることにこれほど夢中になっている人は見たことがない。そう思うと、大澤さんの顔がドラえもんに見えてきた。この人が歩いた後には、きっと道が開けている。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2021年3月22日号
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