正確にいうと、毎月の厚生年金額と、その月の給料と直近1年間の賞与を月割りした金額を足したものの合計が「47万円」を超えれば、超えた分の半分に当たる年金がカットされる。

 基準額が19万円も引き上がることの影響は大きい。受給できる厚生年金額が標準的な月10万円の会社員がいたとしよう。これまでなら、月給18万円(賞与は「なし」とする)を超えると年金がカットされ始めていたが、22年度からは同37万円を超えない限り年金はカットされない。仮に月給37万円とすると、これまでは年金9万5千円がカットされて5千円しかもらえなかったのに、22年度からはカットされずに年金を“満額”受給できる。

 月給37万円は、年収にすると約440万円。定年後に再雇用されたビジネスパーソンでそんな高給取りはまずいない。つまり、年金をカットされない人が大幅に増える。

 こんなことを聞くと「すごい改正だ!」となるが、年金実務に詳しい社会保険労務士の三宅明彦氏によると、これから60歳になる人全員が使える制度ではないという。

「60代前半の年金(特別支給の老齢厚生年金)自体が、もう“風前の灯(ともしび)”なんです。厚生年金は、本来の65歳支給開始に向けて年金をもらい始める年齢が順次引き上げられていて、男性は25年度、女性も30年度で60代前半の年金は終了します」

 引き上げられた「47万円」の基準額が適用されるラッキーな人びとの「生年月日」と「適用期間」だ。

 厚生労働省の資料(22年度末推計)では、基準額が引き上げられた場合、年金の支給停止対象者が約37万人から約11万人に減り、支給停止対象額も約2600億円から約1千億円に減るという。スタートの22年度はその“差”、約26万人が1600億円ほどの年金をカットされずに済む。

 女性は、男性より5年遅れで受給年齢が引き上げられているため、女性のほうが対象年代が広い。対象となる働く女性には朗報だが、この世代は男女雇用機会均等法が施行された前後の世代で“キャリアウーマン”は多くはいないとみられる。

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