配偶者居住権や配偶者居住権に基づく敷地利用権を消滅させるに当たり、配偶者が子どもから相応の対価を受け取った場合は、「総合課税の譲渡所得」として扱われる。

 一方、期間満了前に配偶者居住権を無償で消滅させたり、対価を支払ったが、それが評価額に比べて著しく低い金額だったりした場合は、負担付き所有権を持つ子どもに対し、基礎控除110万円を超えた金額に贈与税がかかる。配偶者居住権消滅時の評価額が1千万円だとすると、贈与税額は177万円にも上る。

「ただし、配偶者の将来の相続財産がそれほど多くなければ、相続時精算課税制度の利用で税金がかからない可能性もあります」(同)

 相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から20歳以上の子や孫への生前贈与について2500万円まで贈与税を非課税にし、贈与した親の相続が発生した際にその贈与財産をほかの相続財産と合わせて相続税を計算することができる仕組みだ。

 配偶者居住権は、実務的にも取り扱いが難しい面があるという。遺産分割協議で設定しようとしても、高齢の配偶者の意思能力がネックとなってできない事態も起こり得る。だからといって元気な50~60代のうちから遺言などで設定しておくと、実際の相続が発生するまでの間に家族の関係性や経済状況、さらには税制自体が変わってしまう可能性がある。

 スタートしたばかりの制度とあって、何らかの不都合が生じれば制度内容が大きく改定されることもないとは言えない。

「残された配偶者に自宅に居住し続ける権利と相応の金融資産を相続できるようにするという制度趣旨に沿った活用なら検討の余地がありますが、節税のためだけに使うというのはあまり勧められません」(同)

 配偶者控除も配偶者居住権も適用には高度な専門知識が必要な場合もある。わからないことがあったら専門家に相談しよう。(ライター・森田聡子)

週刊朝日  2021年3月26日号