日本の相続では、自宅不動産が相続財産の大半を占めることが多い。相続人が配偶者と子どもで法定相続分に沿った遺産分割を行うとすると、自宅を相続した配偶者はほかの財産をほとんど受け取れず、今後の生活費に充てるための金融資産を確保するのが難しくなる。
制度の導入で自宅不動産を配偶者居住権と「負担付き所有権」とに分けてそれぞれの評価額で相続できるようになり、配偶者は「生活費に充てる金融資産」と「無償で自宅に住み続ける権利」を受け取ることが可能となった。
同時に注目されているのが、配偶者居住権設定による節税効果だ。設定後に配偶者が死亡すると配偶者居住権は消滅するが、その際、自宅とその敷地の所有者には相続税が課税されない。
資産税を専門とする税理士法人タクトコンサルティング情報企画部の山崎信義部長(税理士)は、配偶者が亡くなった際の二次相続で、相続人(子ども)が330平方メートルまでの自宅の土地の課税対象額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」が使えるかどうかが一つの判断基準になると話す。
「子どもが既に自宅を所有するなどして小規模宅地等の特例の条件を満たさない場合は、一次相続で配偶者居住権を活用したほうが二次相続での相続税負担が軽くなります。一方、二次相続で子どもが小規模宅地等の特例の適用を受けられる場合は配偶者居住権を活用しないほうが相続税の計算上有利になることもあり、あらかじめ相続税額を試算して有利不利を判断する必要があるでしょう」(山崎さん)
しかし、この制度にも落とし穴はある。例えば、配偶者居住権を設定した後、配偶者が介護施設に入居せざるを得なくなったとしよう。入居金を払うために配偶者が配偶者居住権を換金したいと考えても、民法上、配偶者居住権は売却できない。
負担付き所有権を持つ子どもと合意すれば、配偶者居住権を消滅させ、その代償として子どもから金銭を受け取ることができるが、配偶者には所得税などが課される。