東京五輪の開会式まであと4カ月。だが、新型コロナウイルス対策の“切り札”であるワクチンの供給は絶望的だ。
河野太郎ワクチン担当相は1月、韓国紙・中央日報のインタビューで「ワクチン接種があってこそ東京五輪も可能」と答えていた。ところが、ワクチン輸入の遅れが表面化すると「接種スケジュールの中に五輪を入れない」と軌道修正。丸川珠代五輪相も、五輪開催は「ワクチン接種を前提としない」と明言した。官邸関係者は言う。
「ワクチン供給が五輪に間に合わないことは、実は菅義偉首相もわかっている。今は世論の批判を避けるためワクチンについてはあえて期待値を上げる情報を流してごまかしていますが、一方で五輪とワクチンを切り離して開催のハードルを下げるメッセージを出し、予防線を張っているんです」
五輪にワクチンが間に合わないことは、政府公表の資料を見ても明らかだ。ワクチン接種スケジュールによると、感染時に重症化のリスクが高い65歳以上の高齢者への接種が始まるのは4月中旬。高齢者全員が2回接種できる分量のワクチンが確保できるのは6月末になる見込みだ。それも、欧州連合(EU)が輸出差し止めをしなかった場合の楽観的な日程だ。
さらに、現在日本で承認されている米国ファイザー製のワクチンは、21日間の間隔をあけて計2回接種する必要があり、完全な効果が表れるのは2回目の接種から7日後。逆算すると、選手や五輪関係者は遅くても6月中旬には1度目の接種を終えておく必要がある。
となると、高齢者への接種が終わる前に選手や五輪関係者に優先接種する必要があるが、大会関係者は「平和の祭典なのに、高齢者を押しのけて若い人に優先接種するのは難しい」と話す。
そこで菅政権は、選手や大会関係者のPCR検査や入国後の隔離などを徹底することで、開催を可能にする計画を進めている。はたしてこれで大丈夫なのか。西武学園医学技術専門学校東京校校長の中原英臣氏(感染症学)は言う。
「消毒や手洗いだけではコロナを防ぐことはできません。ワクチンなしで五輪を開催することは、医学的には武器なしで戦争するのと同じ。それでも政治的な判断で五輪を開催し、国民の命を危険にさらすのであれば、五輪のコロナ対策が失敗した場合は内閣総辞職をして責任をとるべきです」
まさかの“ノーガード戦法”で挑む五輪はどうなるのか。英国在住のジャーナリストはこう語る。
「英国ではすでに国民の4割近くがワクチンを打っているのに、五輪開催国の日本でまだ本格的な接種が始まってすらいないなんて信じられない。本当に大丈夫ですか……」
国際社会からドン引きされる結果にならなければよいのだが。(本誌・西岡千史)
※週刊朝日 2021年4月2日号