朝はどんな景色なの?と聞くと、目の前をざくざくざくと無数の官僚たちが目の前を通り過ぎていくという。官僚とも話す?と聞くと、誰も立ち止まらないという。でも数日前、下を向いたまま目を合わせず、それでもはっきりと「お疲れ様です」と言って通り過ぎたスーツ姿の人がいたという。官僚の中にもそういう人が、いるのだ。
静かな夜、首相官邸前。そういえばここの主は官房長官時代の2015年、故・翁長雄志沖縄県知事に「私は戦後生まれなので、歴史をもちだされても困る」と言ったのだった。歴史を見ない首相に、遺骨のために座るこの声は届くのだろうか。故・翁長知事は「イデオロギーよりアイデンティティー」と、沖縄の声を一つにした。沖縄の基地問題は、アイデンティティーの闘いなのだ。だからこそ、私は沖縄の人と共闘したいのだと思う。女であること、沖縄人であること、レズビアンであること、それはイデオロギー以前の、私たちの命の声なのだ。
金武美加代さんのハンストはまだしばらく続くという。静かに始まった静かな闘いに、私たちがどう応えるかが問われているのだと思う。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表