ビジネスパートナーから発展し、プライベートでもパートナーに。2人の相性は抜群で、仕事も生活も心地よくまわっていた。
「全国各地、いろんなところに講演に行ったり、本当に楽しかったですね、あのころは」
結婚から2年後、珠子さんが妊娠。17年に長女が生まれた。子どもは本当にかわいく、大切な存在だったが、子どもが生まれたことで2人の関係性が変わっていった。
「パパとママという役割になるんですから、当然ですよね。でも、ここで彼女との意思疎通がうまくはかれなかったんです……」
珠子さんのビジネスは、珠子さんが始めたものではあるけれども、家業でもあると武司さんは捉えていた。家の経済をまわしていくためには、どんどん売り上げを伸ばす必要がある。子どもが生まれて家族が増えたのだから、なおさらだ。武司さんは、ビジネスをさらに拡大していこうともくろんでいた。
「でも、彼女はそうではなかった。子どもが生まれて、仕事も大切だけれどももっと子育てを楽しみたい、という気持ちが芽生えてきたのでしょう。ビジネスを大きくしていくのではなく『一人一人にていねいに向き合う形で仕事がしたい』と言ってきたんです」
武司さんは納得がいかなかった。ビジネスの世界は過酷だ。拡大拡張を狙って、ようやく現状が保てる。
「『一人一人にていねいに向き合う』と言えば聞こえはいいが、それじゃあ、ビジネス成り立たないじゃん!」
それが、当時の武司さんの気持ちだった。
二人三脚で取り組んでいるとはいっても、珠子さんあってのビジネスだ。じかには売り上げを担っていないという負い目もあって、武司さんはいら立った。
次第に、言い合いが増えた。同じ家の中で一緒に仕事をしているから、気持ちの切り替えもできない。ビジネスでの意見の相違が、私生活にもそのまま持ち込まれ、どんどん仲が悪くなった。
「彼女は『じゃあ、あなたが稼いできてよ』と言う。僕は『今ここで僕が手を引いたら、ビジネスが成り立たないじゃん』と思う。この対立軸が埋められなくて結局、離婚までいってしまったんだと思います」