珠子さんとのビジネスとは別にお金を得るために、武司さんは会社を立ち上げ、メディアの運営を始めた。しかし、これがなかなか売り上げに結びつかなかった。資本金として用意したお金を食いつぶす形となり、それにも珠子さんは苦言を呈した。
そんなある日、離婚の引き金となる決定的なけんかがあった。19年の春。夫婦仲が相当煮詰まっていたので、少し距離を空けるために武司さんが5日ほど家を離れて、温泉に行くことになっていた。その前日の夜だ。
「些細なことなんですけど、彼女から頼まれていたパソコンのセッティング作業を僕がやっていなかった。それを彼女に責められて、僕が悪いのはわかっていたけど、ふだんからのいら立ちもあり『こんなの前に教えただろ、そもそも人に頼むのがおかしい』って逆ギレしたんです。そしたら、澤口も堪忍袋の尾が切れて、僕のパソコンを部屋の外に投げました……とは言っても、マンションの廊下はじゅうたん敷きで、そこにすうっと滑らせるようにしただけなんですけどね。それを取りに行ったら、バタンとドアを閉められ、鍵をかけられてしまったんですよ!」
パジャマのズボンにランニングシャツという姿。春とはいえ、まだ肌寒い。そんな格好で外に締め出され、武司さんは途方に暮れた。ちなみに、交番に行ったが「夫婦げんかには介入できない」と言われ、助けてはくれなかった。
「マンションの廊下にいるのも人目がはばかられるので、結局、マンションのごみ捨て場で一夜を明かしました。あれは情けなかったな」
翌日から予定通り、武司さんは温泉に行った。そこでしばらく考えた。
「僕としては、しばらく別居するのがいいのかなあ、と。離婚というワードは、僕の中には一切、ありませんでした。というのも、彼女、婚活コンサルタントなので、離婚はビジネス的にアウトでしょう、と思っていたんです」
ところが、温泉から戻ってきた日、珠子さんは武司さんをファミレスに呼び出して、こう言った。「離婚しましょう」。