「いきなり、離婚のカードを持ってきたか、と思いました。でも、彼女が決断したのなら仕方がない。ここで離婚したくないとゴネてもわだかまりが残ると思ったので、受け入れましたよ。話し合いは15分で済みました。あんなに仲がよかったのに、どうしてこう歯車がずれてしまったんだろうと悲しくてたまりませんでしたね」
論理的に考える男性脳、感情を大切にする女性脳――男女の脳の違いは、よく言われるところだ。武司さん、珠子さんのケースでも、「ビジネス」や「離婚」に対する考え方に、その違いがよく表れているような気がする。
今、武司さんと珠子さんは、3歳になった子どもをはさんでよい関係が築けている。武司さんの住まいは、二人の自宅から歩いて10分程度。武司さんは週に2~3回、自宅に行って三人で一緒にごはんを食べたり、お風呂に入ったりしている。
武司さんが家を出た当初、気がかりだったのは、とにかく子どものことだった。
「世間一般の離婚のイメージは、別れたら父親は月1回くらい子どもと会って、遊園地とかに行って、夕方子どもは母親のところに帰る、みたいな感じだと思うんです。僕もそうでした。家で仕事をしていたから、子どもと一緒にいる時間は長かった。でも、別れたら頻繁には会えなくなって、子どもの中にパパの存在がなくなってしまう。それは怖くてたまりませんでした」
しかし、その心配は杞憂に終わった。珠子さんは、子どもと父親の関係を切るつもりはなかった。はじめのうちこそ、会う日や時間を決めていたが、そのうち「会いたいと思ったら家に行く」という状態になった。
「3人で旅行にも行きますよ。側から見たら、完全にふつうの家族ですね」
武司さんは自分で立ち上げたビジネスと並行し、離婚前と同じように珠子さんのマネジメントも手がけている。夫婦ではなくなったことで、率直に意見が言えるようになり、以前より関係性はよくなった。
「結果的には、お互いに完全に嫌いになる前に別れてよかったと思いますね」
では、同じ夫婦生活を珠子さんからはどう見えていたのか。【妻編】では妻の視点で振り返る。(取材・文=上條まゆみ)